2012.01.17

モダン道中 その恋待ったなし(1958年)

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宮城県宮城郡松島町で買った松島こうれん。

 あけましておめでとうございます(遅い!)。年末年始は石巻へ行き、津波の被害を受けた友人の実家の改築祝いに参加してきました。元日の午前中には石巻を出発という慌しさでしたが、松島まで車で送っていただき、松島海岸、西行戻しの松公園、五角堂、瑞巌寺を生まれて初めて見物してから仙石線に乗りました。日本三景と言われるだけあって風景も立派、素晴しいお寺! ぜひ旅行されることをおすすめします! 松島といえば、昨年十一月、神保町シアターの「川本三郎編 東北映画紀行」で見た野村芳太郎監督『モダン道中 その恋待ったなし』にも松島で撮影したシーンがありました。


 


 平凡なサラリーマンの鶴川松夫(佐田啓二)が何気なく応募したテレビの懸賞番組で賞金を獲得し、東北・北海道の旅に出発するところから映画が始まります。汽車の中で松夫は自動車修理工の亀野竹彦(高橋貞二)と意気投合して、二人はまず福島の飯坂温泉へ。竹彦は女中の弘子(川口のぶ)に惹かれて田舎出身の優しい女性と結婚することを夢見ますが、最初の恋は失敗に終わります。次に二人は松島へ。遊覧船で、松夫は美しい海老原ゆり(岡田茉莉子)とその妹のトンちゃん(宇野賀世子)と出会います。しかし富豪の令嬢らしき高嶺の花のゆりとはすれ違いで、スリの梅吉(桂小金治)と時化田刑事(坂本武)のドタバタに巻き込まれながら、さらに十和田、八戸へと北上し、弘前で出会った鈴子(桑野みゆき)に竹彦は再び失恋します。ところが旅の最終地、北海道で松夫と竹彦は、ゆりと鈴子と再会し……という恋と旅の映画です。



 松島海岸で友人のお父さんが自動車を運転しながら「この公園に大きいホテルさあったんだけど、あれ無ぐなったのか。パークホテルとかいったべなあ」と言ってたのですが、帰ってきてから、もしや『モダン道中 その恋待ったなし』で見た和洋折衷のレトロモダンな仰々しい建物がそれでは?と調べたら確かにそれが松島パークホテルでした。松島パークホテルを設計したのは、原爆ドーム(旧広島産業奨励館)を設計したヤン・レツルで、大正二年(一九一三年)に営業を開始し、昭和四十四年(一九六九年)に火事で焼けてしまったそうです。残念! 今でも存在していたら絶対に泊りたかったです。松島パークホテルについては、有志の方が作られている「松島パークホテル物語」というホームページに豊富な資料や写真が満載で、詳細を知ることができてとても面白いです。


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本堂は修理中でしたが広大で奥が深く見どころ満載の瑞巌寺。


 この映画は、タイトルは珍妙ですが、とても軽やかで楽しいコメディでした。岡田茉莉子が次から次へと着がえること着がえること! 茉莉子さまのモダンなオシャレを見るのも映画の楽しみのひとつでした。そして今はなき松島パークホテルの映像に感動したように、桑野みゆきの馬車がゆっくりと廻る、鮮やかなカラー映像の弘前の町並も感動的です。現在の弘前を知っている人が見たら、きっとさらに感動するのではないでしょうか。小津安二郎や木下恵介作品などに比べると、この作品や『集金旅行』のような昔の松竹のライトなラブコメを見る機会はあまりありませんでしたが、山田洋次の(この映画で脚本を担当している)『男はつらいよ』シリーズは、このような恋と人情と旅情たっぷりの、松竹の軽いコメディ映画の伝統を受け継いでるような気がします。ちなみに第四十一作『寅次郎心の旅路』のロケ地は同じ松島でした。



 『男はつらいよ 寅次郎心の旅路』日記のときには、松島名物「松島こうれん」の店舗と工場は津波の被害で水没して営業を停止していましたが、昨年夏に営業再開し、私が行ったときもお土産屋にちゃんとたくさん売られていました。初めて食べる松島こうれんは、白くて軽くてフワッと口中で溶け、ほのかな甘みで赤ちゃんせんべいにそっくり! 松島こうれんの製造元、紅蓮屋心月庵の公式サイトにあるように、この米の粉のせんべいの伝説はなかなかヘビーな物語なのですが、創業嘉暦二年(一三二七年)という歴史の古さで長く定番の名物として親しまれているようです。震災によって長い歴史に幕を下ろさざるをえなかった店が東北各地に多い中、せめて営業再開できた店が、古い松島の面影を伝える銘菓を末永く作り続けられるよう祈ってます。公式サイトで通信販売も利用できるのでぜひどうぞ。


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臙脂と紫が混ざったような色のリボンが可愛い。


 


 


 

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2011.12.17

しあわせの雨傘(2010年)

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留守番を命じられたピュジョル氏が食べるのはキッシュ。

 先日、神保町シアターの「デビュー60周年 女優 岡田茉莉子」特集に行って、岡田茉莉子さまにサインと握手をしてもらいました。温かくて小さくてほっそりした手は、紛れもない美女の手。戦後の邦画黄金期に活躍した女優さんに握手してもらえるなんて生まれて初めてで今でも夢みたいです。サイン会の直前に見た中村登監督『集金旅行』(一九五七年)がセックスと金をネタに笑わせるフランスとかイタリアの映画のような大人っぽいコメディで素敵だったのでさらに感激し、ふと喜劇も悲劇も似合う女優・茉莉子さま主演で、フランソワ・オゾン監督『しあわせの雨傘』みたいに、大女優にリスペクトを捧げるコメディを撮ったらいいのになあと思いました。往年の映画女優はまだたくさんご存命ですが、茉莉子さまの過去作のパロディが一番面白いような気がします。『秋津温泉』の横移動のカメラや走りまくる茉莉子さまを思いっきりパロディの素材にしたようなコメディが見たい!? ちなみにカトリーヌ・ドヌーヴは一九四三年生まれ、ちょうど茉莉子さまの十歳年下です。


 


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集金旅行


 『しあわせの雨傘』の舞台は一九七七年。主人公のシュザンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は父が創業した雨傘工場(!)を継いだ婿養子のピュジョル社長(ファブリス・ルキーニ)のよき妻です。娘のジョエル(ジュディット・ゴドレーシュ)は旅に出てばかりの夫と離婚すると息巻き、息子のローラン(ジェレミー・レニエ)は芸術家志望で無職ですが、幸せな日々を送っていました。ある日、雨傘工場でストライキが起きてピュジョル社長が監禁されます。シュザンヌは昔の恋人のババン市長(ジェラール・ドパルデュー)の助けを借りて夫を助け出したものの、ピュジョル社長は疲労がたたって入院します。そこで夫が不在の間、シュザンヌが労働者と交渉して社長業を行うことになり…という話です。


 


 カトリーヌ・ドヌーヴが演じてきた女性たちを思い起こさせる内容になっていて(『シェルブールの雨傘』『昼顔』『終電車』『哀しみのトリスターナ』など)、コメディなのにシュザンヌに深みと説得力がありすぎて面白いです。しかもシュザンヌは、俗物の典型のようなブルジョワの夫とロマンチストすぎる左翼の市長、その二人に愛されつつ両方に貶められることで、彼女の「ブルジョワの妻」「貞淑な妻」「お飾りの壷」「闘士の恋人」といった肩書きや形容詞がどんどん剥ぎ取られ、単なる「女」になって自力で這い上がっていくところがまた面白いです。どれが本当の顔かわからないほどいくつもの顔を持っているが故に「女」としか言いようのない女、ってまさにカトリーヌ・ドヌーヴが何度も演じてきた役柄ではないでしょうか。セックスしまくる女性のことを、抑圧されて不満がたまりまくって心に闇を抱えているとしか描けない『恋の罪』の監督はフランソワ・オゾンの女性観をちょっと見習ってほしいです。


 


 裕福なピュジョル家にはメイドがいるのでもちろん奥様のシュザンヌは料理や配膳などはしないのですが、息子と喋りながらローストチキンに詰め物をするシーンがありました。もちろん台所には立たず、舞台はリビングです。そういう特別なごちそうの詰め物は奥様がやるという習慣があるのでしょうか? それともやはり、ピュジョル氏の朝食を運ぶシーンと同じように、メイドの仕事もこだわらずにやるシュザンヌの気さくな人柄の表れなのでしょうか。ちなみにアガサ・クリスティによる名探偵ポアロが主人公の短編集『クリスマス・プディングの冒険』(一九六〇年刊行)には以下のようなシーンがあります。七面鳥に何を詰めるかを決めているのは女コックのミセス・ロスです。

「それにしても、あなたは天才ですぞ、ミセス・ロス! 天才だ! あんなすばらしい料理を味わったのは、わたしも生まれてはじめてですぞ。あのカキのスープ--」彼は唇で表現たっぷりな音をたてた。「それから、あの詰め物。七面鳥の栗の詰め物、あれは、わたしの経験でも、まったく類のないものだった」
「あなたさまからそうお聞きしますのは、奇妙ですわ」とロスおばさんはしとやかに答えた。「あの詰め物は、特殊な料理法によるものなのでございます。もう何年も前に、一緒に働いていましたオーストリアの料理人から、教わったものなのでございます。ですけれど、あとのものは、ただの、正真正銘の、イギリス料理なのです」
(アガサ・クリスティー『クリスマス・プディングの冒険』早川文庫より)



 ローストチキンは真似して作るには大物すぎるので、シュザンヌに会社を乗っ取られたピュジョル氏が家で昼に食べる冷蔵庫のキッシュをわが家でも作ってみました。といってもフランス語がわからないので、まずは『ジュリー&ジュリア』でおなじみ、ジュリア・チャイルド著『Mastering the Art of French Cooking』(一九六一年刊行)をチェックしてみました。日本でキッシュがポピュラーになったのはここ十年のような気がしますが、アメリカではこの本が発売される頃には既に「作るのが簡単で食欲をそそる前菜」として知られていたようです。そしてサラダと温かいフランスパンと冷えた白ワインと一緒に食べることで、まさに「完璧なランチもしくは軽い夕食」になると書いてありました。


 


 もう一冊チェックしたのはアメリカ人のフードライターであるリチャード・オルニー著『The French Menu Cookbook』(一九七〇年刊行)です。この本は二〇一〇年にイギリスのオブザーバー紙が選ぶ料理本ベスト五〇の第一位に輝きました。キッシュは“形式ばらない春のディナー”の一品として紹介されています。メニューは以下の通り。そして量がちょうどよく思われたのでこちらのレシピを真似して作ってみました。しかし平たいタルト皿を使ったので卵液は大幅に余ってしまいました。卵は2個、生クリームはソース用1/2カップ、追加用1/2カップくらいに減らすか(それでも余るかも)、五センチくらいの深さのある型で焼くかをオススメします。また、海老は大好きなんですが、海老を食べて激しい運動をすると顔と手がパンパンに腫れて手のひらが痒くなるというアレルギー持ちなので、魚屋で白身魚のアラを安く買って出汁を取り、具は牡蠣にしました。あともったいないので牡蠣と炒めた後のミルポワも入れちゃいました。「真似して」と言いつつ、全然違いますね。


 


wine 形式ばらない春のディナー

●生野菜の前菜
ドライすぎずリッチすぎない軽い、若い白ワイン
プイィ・フュメ、プイィ・フュイッセ、シャートヌフ・デュ・パプ、サヴィニエールなど

●海老のキッシュ
ワインは上と同じ

●鶏の赤ワイン煮
古過ぎず立派な産地すぎない四~五年の古いバーガンディ(コート・ド・ボーヌ、ニュイサンジョルジュ、フィサンなど)
もしくはトゥーレーヌの赤ワイン(シノン、ブルグイユ) 
冷たすぎず冷やして飲むこと

●蒸し芋

●野生のグリーンサラダ

●チーズ
上と同じワイン
もしくはより古いバーガンディー
コート・ド・ニュイ(シャンベルタン、ボンヌ・マール、ヴォーヌ・ロマネ、エシェゾーなど)

●フラメリー・ラズベリーソース
ソーテルヌ
(リチャード・オルニー著『The French Menu Cookbook』より)


 


scorpius リチャード・オルニーの海老キッシュ

【材料】
●生地
・中力粉 2/3カップ
・塩 ひとつまみ
・バター 6tbs(3オンス)
・冷水 2と1/2~3tbs 

●フィリング
・ミルポワ 2 tbs(もしくはにんじん1本、中タマネギ1個、タイム、ベイリーフ、塩、こしょう、バター2tbsで事前に作る)
・新鮮な小さい海老 3/4パウンド
・オリーブオイル 1tbs
・塩、こしょう ひとつまみ
・コニャック 1tbs
・ドライの白ワイン 1/2カップ
・生クリーム 1/2カップ(ソース用)

・卵 3個
・塩、フレッシュな丸ごとの胡椒
・生クリーム 1カップ 
・小さいひとつかみのおろしたグリュイエルチーズ

【作り方】
・小麦粉と塩をふるいにかけたらボウルに入れ、サイコロ状にカットしておいたバターと指かナイフで混ぜる。バターは冷たく固いまま粉によく練り込み、ドロドロのピュレ状にならないよう気をつける。冷水を加えてネバネバのかたまりにしてサランラップで包み、二時間冷蔵庫にねかしておく。
・打ち粉をした板の上で生地の玉に打ち粉をして丸いパティの形にし、すばやく伸ばしてパイ皿かタルト皿に敷く。焼いている間に生地が変形しないようにフォークで生地を数箇所さして穴を開けておく。タルト皿に敷いたパイ生地の上にクッキングペーパーを乗せ、焼いている間に生地が膨らまないようにパイ用重石や渇いた豆、生の米などを置く。 15分ほど175℃~190℃で焼く。重石とクッキングペーパーを取り除いて、さらに3~4分焼く。

・海老を洗ってタオルで拭いて乾かす。まだ殻から取り出さないこと。
・フライパンでオリーブオイルを熱し、海老とミルポワ、塩、こしょうを加え、強火で海老が全面ピンクになるまで混ぜる。コニャックを加え、アルコール分を飛ばして混ぜ続ける。さらに白ワインを加え、アルコールがほとんどなくなったら火からおろして粗熱を冷ます。
・海老の殻を外し、殻の尻尾の部分を10~12個取り外す。その尻尾をすり鉢ですりつぶして生クリームを混ぜ、小さなソースパンに移して加熱する。沸騰したら漉し器に通す。残りの殻をすりつぶして取った汁も加える。
・海老を生地の端に並べて、残りの海老はカットしてバラバラにして並べる。

・ボウルに卵、塩、新鮮な胡椒、先ほど作った海老風味のクリーム、追加の1カップの生クリームを混ぜて、電動泡だて器でよくかき混ぜる。その生地を生地を敷いた皿に注いだら、表面にチーズを散らす。175℃~190℃で約30分焼く。焼いた後、約30分間、ドアを開けた状態でオーブンの中に置いてねかしたほうがいいかもしれない。熱々ではなく温かい状態で食べるのが好ましい。
(リチャード・オルニー著『The French Menu Cookbook』より)


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映画の舞台と同じ70年代のレシピで作ってみた。


 


 


 


 


 

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2011.11.09

三尺左吾平(1944年)

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仙台が舞台の映画にこじつけて作った宮城の郷土料理「おくずかけ」。

 今さら夏の話を書くのもあれですが、七月下旬から八月上旬にかけて、石巻の友人の実家に招待してもらい、旧北上川で行われた慰霊祭と川開き祭りに参加してきました。灯篭流しは何度か経験はありますが、あんなにたくさんの泣いている人に囲まれながら眺める灯篭流しは初めてでした。というわけで宮城を舞台にした映画『三尺左吾平』を見ました。この映画は『青葉城の鬼』『赤西蠣太』と同じく伊達騒動もの。仙台でフリーペーパーや写真集、古地図などを製作している風の時編集部ブログの二〇〇八年四月二十二日の記事によると、空襲で消失する前の仙台城大手門や城下町の豪商だった伊澤家などで撮影されているのだそうです。 『花つみ日記』とはテイストが違いますが、こちらも大変面白い石田民三監督作品です。


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旧北上川で七月三十一日に行われた灯篭流し。


 身長は三尺(約九十センチ!)しかないのに身の丈よりも長い刀を持ち、足が速くて腕が立つ伊達藩の名物男、左吾平(榎本健一)が主人公です。藩主の綱村がいる江戸の藩邸では、まだ幼い綱村を利用して権勢を振おうとする伊達兵部(進藤英太郎)と原田甲斐(清川荘司)の陰謀と、彼らの専横を阻止しようとする伊達安芸(志村喬)と氏家伝兵衛(黒川弥太郎)らの暗躍が渦巻いています。左吾平はひょんなことから友情を結んだ氏家から形見の品を預かったことで騒動に巻き込まれ…という話です。



 この映画は一九四四年(昭和十九年)六月に製作されたので、藩主のために行動する左吾平を手本として欲をかかず君主に忠義を尽くして戦争に励めという映画なんだろうなあと考えると恐ろしいのですが、そんなのどうでもいいやと思ってしまうくらい面白いところがいっぱいある映画でした。そして本当は“菓子映画”と言いたいくらい、ある菓子がこの映画を締めくくるところが楽しいのですが、書いてしまうとつまんないので実際に見て確認してください。同じ石田民三が監督した『花つみ日記』に出ていた高峰秀子がこの映画にも出演していて、左吾平の親友が彼の家に行儀見習いとして預ける、鼻っ柱の強いお転婆な妹の役を演じて可愛いです。


 

 
 さて、石巻に行ったついでに、この『三尺左吾平』の舞台にもなっている仙台もブラブラしようと思ったのですが、喫茶店で今回の旅の反省会をしていたらあっという間に帰京の時刻になってしまい、仙台はまったく見ることができませんでした。かろうじて駅の地下をブラブラし、綱村に招かれた近江の菓子職人が創業したという菓子屋、九重本舗・玉澤で、東京ではあまり見かけない一杯分パックの「九重」と、弁当コーナーではらこめしを買いました。「はらこめし」と言えば『独眼竜政宗』のはらこめしレシピは宮城県の亘理町公式サイトの荒浜婦人会のレシピを参考にして作ったものです。震災後しばらくしてからレシピページの公開が停止されていたのですが、現在は復活しています。


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九重本舗・玉澤の九重。ぶどう味。


 そこでこじつけですが、最近レシピも全然掲載していないので、石巻のスーパーで買った豆麩と温麺を使って作った宮城の郷土料理「おくずかけ」を紹介します。以下は宮城県大崎市にある喜多屋の豆麩のパッケージの裏に書いてあったレシピです。

noodle おくずかけ

【材料】(4人分)
まめ麩 20g
温麺 300g
干ししいたけ 2個
油あげ 1枚
こんにゃく 1/2枚
じゃがいも 1個
片栗粉 大さじ1
しょうが汁 少々
かけつゆ(だし汁カップ16、しょうゆ大さじ5、めんつゆ大さじ6、みりん大さじ2)

【作り方】
(1)まめ麩は、たっぷりの水につけておき、ふっくらと柔らかく戻す。水気を押し絞る。
(2)干ししいたけは、水に浸して戻し、軸を除いて、細く切る。じゃがいもは3mm厚さの短冊切りにする。
(3)こんにゃくは、熱湯で、2~3分ゆでて3mmの厚さの薄切りにする。油揚も、2~3分ゆでて油抜きし、3cm長さの短冊切りにする。
(4)温麺はゆでて、水で洗い、水を切る。
(5)鍋にかけつゆのだし汁を煮立て、調味料を入れ、再び煮立ってきたら、(2)と(3)を入れる。材料が煮えたら(1)と(4)を入れ、水どき片栗粉でとろみをつけ、お好みで、しょうが汁を加える。

喜多屋の豆麩のパッケージのレシピより)

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2011.10.15

レイチェルの結婚(2008年)

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自分でスイカを丸ごと買ったのは初めて! 山形産、千二百円。

 毎年、夏が来てもスイカ欲はあまりありません。しかし今年は、生まれて初めて自分で丸ごと一個スイカを買いました。七月に元同僚女子と女子大時代の友人と一緒に参加した宮城県石巻市北上町での泥かきボランティアの昼休憩時、地元の方にご馳走していただいたスイカがあまりに美味しく、また食べたくなってしまったせいです。もちろん、三十度を超す炎天下に一日中いたあの日の冷えたスイカの甘さを再び味わうことはできませんが。
 昨年は六分の一スイカを買って、友人夫婦に『秋立ちぬ』『ディア・ドクター』『母べえ』『歩いても歩いても』などのスイカ映画を教えてもらい、『』などを見たりしましたが、今年のスイカ映画はこれに決定してました! ジョナサン・デミ監督『レイチェルの結婚』です。


 


 映画はキム(アン・ハサウェイ)が、姉のレイチェル(ローズマリー・デウィット)の結婚式に出席するために家に戻るところから始まります。式の準備が進むにつれ明らかになるのは、幸せいっぱいのはずの一家の複雑な過去と現在です。主人公のキムは薬物中毒の更正施設で治療中のトラブルメーカーで、ワガママの裏に隠された繊細な心に癒されない傷を抱えています。レイチェルはそんな妹を愛しながらも彼女への不信を拭えず、二人の間には衝突が絶えません。父のポール(ビル・アーウィン)はオロオロと姉妹の間に立って食べ物の心配をするばかりで、再婚して離れて暮らす母のアビー(デボラ・ウィンガー)は娘たちにどこか距離を置いています。そんな一家が結婚式当日に全員集合し…という話です。


 


 ジョナサン・デミ監督作品が好きすぎて、特に『羊たちの沈黙』は何回見てるんだってくらい見てますが、この『レイチェルの結婚』も何回見てもいろんなことを語りかけてくる映画です。結婚式シーンの雑然・混沌ぶりなど圧巻で、花婿はアフリカ系、結婚式の衣装と料理はインド風、永遠の愛を誓うのは「コネチカット州とニール・ヤング」。音楽はロック、アラブ音楽、弦楽合奏、ヒップホップ、ジャマイカ音楽と、にぎやかです。


 


 ジョナサン・デミ作品と言えば、音楽が面白くて、女の子キャラがみんな強くて可愛くて、マイノリティが出て来る話が多くて、地方色・土地柄が濃厚で、脇役に扮するおなじみの俳優を探すのが楽しい、といった印象がありますが、フィルモグラフィーがバラエティに富みすぎている気がしていました。ロジャー・コーマン(『レイチェルの結婚』にも出演している)の会社でなんでも撮っていた人だから何でもやるのかなと。この『レイチェルの結婚』もパッと見は過去作と全然違うのですが、しかし、そんなジョナサン・デミにもやはり一環したテーマがあるんだなあと気付かされる作品でした。それを考えると、この映画の音楽が演技と同じくその場で演奏されていることにも、「家族の映画なのでホームビデオ風に演出してみました」以上の意味があることがわかって面白いです。


 


 気になるスイカは、結婚式前夜のキッチンに登場し、そこでレイチェルとキムをきっかけに家族の最悪の大ゲンカが始まります。ケンカの原因の張本人はキムなのですが、緑色のミニドレスを着て真っ赤なスイカを食べる姿は可愛いです。日本のスイカというと「夏に家族で食べるもの」ですが、アメリカではどうなんでしょうか? カポーティの小説や『ハックルベリー・フィンの冒険』にチラリと出てきた記憶のみで、アメリカ映画のスイカは思い出せません。ところがこの米国スイカ振興協会(!)によると、アメリカでもスイカは「夏に子どものいる家庭で食べるもの」というイメージが強いみたいです。それなのにキムの一家はスイカを囲んで大ゲンカ。古式床しい映画のように結婚前夜に家族でスイカを食べてしみじみ、とはなりません。しかし結婚式の大騒ぎが終わった翌朝の清澄な空気の中で確認されるのは、頼りにならない両親の下でレイチェルとキムが共に過してきた時間、正反対の姉妹の間にもやっぱり存在する深い絆なのでした。『レイチェルの結婚』はまさしくスイカが似合う、家族の映画と言いたいです。


 


 ジョナサン・デミ監督の新作の予定はスティーヴン・キングのこれから発売される長編小説『11/22/6』の映画化で、現代に生きる三十五歳の英語教師が一九五八年にさかのぼってケネディ大統領暗殺を阻止しようとする話だとか。また「ジョナサン・デミはなんでも撮るなあ」という感じのフィルモグラフィーを更新しているように見えますが、『レイチェルの結婚』を見た後では、すごくジョナサン・デミらしいテーマの予感がします。そういえば『高慢と偏見とゾンビ』を、ジョナサン・デミ監督、ナタリー・ポートマン主演で撮るとかいう話はなしになったんですよね? ジェイン・オースティンファンでもあるので二見文庫の原作を買ってみたのですが、こりゃ原書で読まないと意味ないわ、と途中で投げ出してしまいました。いずれにしろ、ジョナサン・デミの新作が今後もますます楽しみです! 


 


 


 


 


 


 

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2011.09.19

花つみ日記(1939年)

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栄ちゃんの好物。金龍山浅草餅本舗で買った切山椒。

 ずいぶん昔、友人の友人で映画の研究を生業とされている方から石田民三監督作品をすすめていただいて、『花ちりぬ』『三尺左吾平』『喧嘩鳶』『あさぎり軍歌』『化粧雪』『をり鶴七変化』などを見てたいへん面白かったのですが、それからしばらくは忘れていました。それが昨年、山崎まどかさんが石田民三監督『花つみ日記』を絶賛されていて気になり、先日やっと神保町シアターで見ることができました。もう最初からウルウル。偏愛映画の一本となりました。原作は吉屋信子です。


 


 みつる(清水美佐子)が東京から大阪の女学校に転校してきた日から映画は始まります。その日、たまたま帰る方角が同じで、一緒にバスに乗ったのが栄子(高峰秀子)でした。育った環境のまったく違う二人でしたが気が合い、お互いの家を行き来したり、日曜日に一緒に教会へ通ったりするうちに親友になります。そんな二人は、憧れの梶山先生(葦原邦子)の誕生日を知っていることを自分たちだけの秘密にしていて、一緒にバースデープレゼントを贈ろうと約束します。ところが、ひょんなすれ違いからケンカになり…という話です。



 まったくあらすじを知らずに見たおかげで、尚更、この映画を楽しめたように感じます。冒頭の女学校のシーンが聖なる空間のように美しすぎて訳もわからず泣きそうになるのですが、映画が進み、みつるさんと栄ちゃん(矢沢の「永ちゃん」のようなイントネーションで読んで欲しい)の素性が明らかにされるにつれ、なぜあそこまで美しく、すべての女の子に等しく降り注がれる天からの視線のように校庭も校舎も廊下も映されていたのか、その意味がジワジワとわかってきて、また泣きました。ああ、少女になりたい…! ブスでデブでメガネの脇役だっていい…! この映画を見たら、少年もオバサンもオジサンもみんなそう思うはずです。


 


 映画の冒頭ではバスに乗ったみつるさんのうなじが清らかに光り輝くのですが、中盤のロープウェーでは栄ちゃんのうなじが清らかに光り輝きます。そしてロープウェー山頂のお寺で栄ちゃんが膝を付いてお祈りする姿は、それに重なる鐘の響きに不思議な異国情緒が感じられるせいもあって、修道女が回廊のある神秘的な修道院でお祈りしているような、ハッとするぐらいの清らかさがありました。栄ちゃんは振袖姿なのに! しかしそれは、栄ちゃんの現実とあまりにも裏腹なので、清らかであればあるほど、栄ちゃんの姿は切なく目に沁みます。


 


 『花つみ日記』で印象的な食べ物は切山椒です。出会ったばかりの頃、みつるさんと栄ちゃんは、かつて東京に住んでいたお互いの思い出話をして、栄ちゃんがみつるさんに「切山椒が好物だった」と言います。この他愛ない会話で、もし東京にいたら二人の少女は絶対に出会わなかっただろうとわかるのですが、大阪では、そして天国のような聖なる女学校では二人の友情は壊れません。そして秋になり二人は、みつるさんの東京の兄さんが送っくれた切山椒を一緒に食べます。箸で切山椒のはしっこをつまみ上げて左手で切山椒のしっぽを持つ、栄ちゃんの慣れた手つきが生き生きとして、切山椒を前にした二人は本当に楽しそう。しかし恥ずかしながら私は切山椒を知りませんでした! 調べてみると本来は十一月の酉の市で売られる菓子なのですね。浅草の仲見世に一年中売っている店があると聞いて、さっそく買って来ました。白、鶯色、桜色、茶色という和風のカラフルさが奥ゆかしく、食べるとスーッと香る山椒が爽やか。とても可愛らしい餅でした。


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包みもなんとなく可愛い。


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金龍山浅草餅本舗は仲見世の中でもお堂に近い場所にある。


 教会があってロープウェーがあって、セーラー服の少女たちが中原淳一の絵でキャッキャ言っているモダン大阪。今見ても『花つみ日記』の世界にすんなり入って行ける理由は、そんな大阪のオシャレな空気が大きいように感じます(一九三六年製作の『浪華悲歌』も大阪モダン)。そしてもうひとつは、実家の商売によって自分の将来が定められることを当然のように受け入れる栄ちゃんの悲しさに、若くして当然のように戦争に行く少年の悲しさを重ねて見ることができるところにもあるような気がします。ちなみにみつるさんのお兄さんの話は原作には出てきません。


 


 

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