1930年代

2011.09.19

花つみ日記(1939年)

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栄ちゃんの好物。金龍山浅草餅本舗で買った切山椒。

 ずいぶん昔、友人の友人で映画の研究を生業とされている方から石田民三監督作品をすすめていただいて、『花ちりぬ』『三尺左吾平』『喧嘩鳶』『あさぎり軍歌』『化粧雪』『をり鶴七変化』などを見てたいへん面白かったのですが、それからしばらくは忘れていました。それが昨年、山崎まどか先生が『花つみ日記』を絶賛していたのが気になり、先日やっと神保町シアターで見ることができました。もう最初からウルウル。偏愛映画の一本となりました。原作は吉屋信子です。


 


 みつる(清水美佐子)が東京から大阪の女学校に転校してきた日から映画は始まります。その日、たまたま帰る方角が同じで、一緒にバスに乗ったのが栄子(高峰秀子)でした。育った環境のまったく違う二人でしたが気が合い、お互いの家を行き来したり、日曜日に一緒に教会へ通ったりするうちに親友になります。そんな二人は、憧れの梶山先生(葦原邦子)の誕生日を知っていることを自分たちだけの秘密にしていて、一緒にバースデープレゼントを贈ろうと約束します。ところが、ひょんなすれ違いからケンカになり…という話です。



 まったくあらすじを知らずに見たおかげで、尚更、この映画を楽しめたように感じます。冒頭の女学校のシーンが聖なる空間のように美しすぎて訳もわからず泣きそうになるのですが、映画が進み、みつるさんと栄ちゃん(矢沢の「永ちゃん」のようなイントネーションで読んで欲しい)の素性が明らかにされるにつれ、なぜあそこまで美しく、すべての女の子に等しく降り注がれる天からの視線のように校庭も校舎も廊下も映されていたのか、その意味がジワジワとわかってきて、また泣きました。ああ、少女になりたい…! ブスでデブでメガネの脇役だっていい…! この映画を見たら、少年もオバサンもオジサンもみんなそう思うはずです。


 


 映画の冒頭ではバスに乗ったみつるさんのうなじが清らかに光り輝くのですが、中盤のロープウェーでは栄ちゃんのうなじが清らかに光り輝きます。そしてロープウェー山頂のお寺で栄ちゃんが膝を付いてお祈りする姿は、それに重なる鐘の響きに不思議な異国情緒が感じられるせいもあって、修道女が回廊のある神秘的な修道院でお祈りしているような、ハッとするぐらいの清らかさがありました。栄ちゃんは振袖姿なのに! しかしそれは、栄ちゃんの現実とあまりにも裏腹なので、清らかであればあるほど、栄ちゃんの姿は切なく目に沁みます。


 


 『花つみ日記』で印象的な食べ物は切山椒です。出会ったばかりの頃、みつるさんと栄ちゃんは、かつて東京に住んでいたお互いの思い出話をして、栄ちゃんがみつるさんに「切山椒が好物だった」と言います。この他愛ない会話で、もし東京にいたら二人の少女は絶対に出会わなかっただろうとわかるのですが、大阪では、そして天国のような聖なる女学校では二人の友情は壊れません。そして秋になり二人は、みつるさんの東京の兄さんが送っくれた切山椒を一緒に食べます。箸で切山椒のはしっこをつまみ上げて左手で切山椒のしっぽを持つ、栄ちゃんの慣れた手つきが生き生きとして、切山椒を前にした二人は本当に楽しそう。しかし恥ずかしながら私は切山椒を知りませんでした! 調べてみると本来は十一月の酉の市で売られる菓子なのですね。浅草の仲見世に一年中売っている店があると聞いて、さっそく買って来ました。白、鶯色、桜色、茶色という和風のカラフルさが奥ゆかしく、食べるとスーッと香る山椒が爽やか。とても可愛らしい餅でした。


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包みもなんとなく可愛い。


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金龍山浅草餅本舗は仲見世の中でもお堂に近い場所にある。


 教会があってロープウェーがあって、セーラー服の少女たちが中原淳一の絵でキャッキャ言っているモダン大阪。今見ても『花つみ日記』の世界にすんなり入って行ける理由は、そんな大阪のオシャレな空気が大きいように感じます(一九三六年製作の『浪華悲歌』も大阪モダン)。そしてもうひとつは、実家の商売によって自分の将来が定められることを当然のように受け入れる栄ちゃんの悲しさに、若くして当然のように戦争に行く少年の悲しさを重ねて見ることができるところにもあるような気がします。ちなみにみつるさんの戦争に行くお兄さんの話は原作には出てきません。


 


 

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2010.09.17

風と共に去りぬ(1939年)

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『真夜中のサヴァナ』にも出てきたミント・ジュレップ。

 なんでいまさら見ているのかというと、いまさらマーガレット・ミッチェルの原作を読んだからです。すると同じ一九三六年に刊行され、同様に南北戦争前後のアメリカ南部を舞台にしているウィリアム・フォークナー著『アブサロム、アブサロム!』が気になって夜も眠れなくなってしまったので昨日読了しました。いま私の頭の中はすっかりアメリカ南部ブームです。


 


 


 映画『風と共に去りぬ』を久々に見るとタイトルのロゴが他で見たことないくらいデカく、その半端でない気合がよくわかりました。打ち鳴らされる鐘の音とともに現れるタラハウスに、「SELZNICK INTERNATIONAL STUDIOS」という文字が刻んであることにも初めて気付き、プロデューサーのデヴィッド・O・セルズニックのオレオレ映画ぶりにも感服しました。そして原作を読み、伝記『タラへの道 ~マーガレット・ミッチェルの生涯』(著:アン・エドワーズ 文春文庫)を読んだら、17インチのウエストで進取の気性に富んだスカーレットも、子どものような体型でハート型の顔のメラニーも両方、原作者のマーガレット・ミッチェル自身にソックリということがわかって少しゾッとしました。ヴィヴィアン・リーもオリヴィア・デ・ハヴィランドもなんだか怖いし、何から何まで押しが強い人ばっかり関わっていて、やはりいつまでも気になる映画です。押しの弱い人なんか、こんな大作映画に関わっているわけないですもんね。


 


 


 映画に最初に登場する食べ物は、タールトン家の双子が手に持っているグラスです。改めて鑑賞するまでまったく気付いていませんでしたが、グラスにはワサワサと葉っぱがいっぱい入っています。これはクリント・イーストウッド監督『真夜中のサヴァナ』にも出てきた、ミント・ジュレップに違いありません。そういえば原作にも二箇所出てきました。まさしくアメリカ南部ならではの飲み物ということなんでしょうか。


 


 原作でミント・ジュレップが最初に登場するのは、命からがらアトランタからタラへ逃げてきたスカーレットが、黒人の使用人のポークに言う下記のセリフです。結局、戦争のせいで砂糖はなく、ミントも馬が食べてしまい、コップも北軍の兵士たちに割られて、スカーレットはミント・ジュレップを飲めません。

それからコップを二つと、はっかと、お砂糖もね。それでジュレップ(訳注 ウィスキーやブランデーに甘味、はっか、香料などを加えた飲料)をつくるわ
(マーガレット・ミッチェル著『風と共に去りぬ』 大久保康雄、竹内道之助訳 新潮文庫より)

 次は南北戦争後、妹の恋人を横取りしてスカーレットがアトランタで再婚した頃に出てきます。客をもてなす際に定番の飲み物だったことがよくわかります。

スカーレットは、ピティ叔母の家を、戦前とおなじように飾りつけ、上等のぶどう酒や、ジュレップ(訳注 ウィスキーやブランデーに砂糖、はっかなどを加えた飲料)や、焼きハムや、つめたい鹿の腰肉が出せるようになるまでは、お客を――とりわけメラニーが迎えるような名士のお客を、わが家にはよぶまいと思った。
(マーガレット・ミッチェル著『風と共に去りぬ』 大久保康雄、竹内道之助訳 新潮文庫より)

 ちょうど『真夜中のサヴァナ』を見た頃、『初恋のきた道』日記の餃子先生と『麗しのサブリナ』日記に登場した老舗の若旦那に湯島の老舗バー、EST!に連れてってもらいました。そこで「ミント・ジュレップってなんなんですか?」と質問していたら、ミント・ジュレップと違ってラムベースだけど、自家栽培のミントを使ったモヒートが美味しいよと教えていただき、オーダーしてみたら素晴らしく美味しく、何杯も何杯もおかわりして、私のせいでミントが全部なくなっちゃったという恥ずかしい飲み方をしたことがあります。それくらいEST!で初めて味わったモヒートは見た目涼やか香りよく味わい深く、衝撃的でした。いざ自分でミント・ジュレップを作ってみたら、酒と甘味のバランスなどの前に、まず第一に、伸び伸び育って肉厚でみずみずしいミントを手に入れるのが難しいことがよくわかりました。


 


 実際どのようなミント・ジュレップが作られていたのでしょうか。古い料理書をまた調べてみました。一九一六年に刊行された、United Daughters of the Confederacy(南部連合国娘連盟?)による『Echos of Southern Kitchens』のミント・ジュレップは以下のような感じでした。砂糖のジョリジョリ感をわざと残すレシピでしょうか。

背の高いグラスに厚いレモンスライス、角砂糖1つと約30mlのバーボンウイスキーとミントの枝を数本入れる。グラスをよく削った氷で満たし、グラスが十分に霜で覆われるまで、グラスの外側を指で触れないようにしながらかき混ぜる。最後にストローを差して新鮮なミントの小枝を飾る。
(United Daughters of the Confederacy『Echos of Southern Kitchens』より)


 


 一九一三年に刊行された、ローラ・ソーントン・ノウルズ著『Southern Recipes Tested By Myself』だと、下記のように、ソルティ・ドッグなどでグラスの縁に塩を付けるみたいにグラニュー糖を付けるのが興味深いです。

 ピッチャーに一人あたり1個(多くても2、3個)の角砂糖、数本のミントの小枝を入れ、沸かした湯を約236ml注いで冷めるまで置いておく。ジュレップ用グラスを用意して、縁にレモンをこすりつけ、グラニュー糖に浸けて霜がおりたようにする。グラスを砕いた氷で満たし、端にミントの枝とストローを差す。冷ましておいたピッチャーに約90mlのウィスキーを注ぎ、グラスに注ぐ。
(ローラ・ソーントン・ノウルズ著『Southern Recipes Tested By Myself』より)


 


 ミントの葉をグラスのなかで隈なく潰せというレシピと潰しちゃダメというレシピがあったり、酒の代わりにジンジャーエールを使うレシピや、桃を入れるレシピがあったり、さらにはミントの葉やストローがグラスから何インチ突き出さなくてはならないかまで指定しているレシピまであって、うるせーよ!ってくらい南部人のミント・ジュレップへのこだわりは強くて面白いのですが、面白すぎるので他のレシピの披露はまたの機会に。

 ちなみにウィリアム・フォークナー著『アブサロム、アブサロム!』には、卵子酒やトディやレモネードは出てきましたが、ミント・ジュレップは出てきませんでした。しかし『響きと怒り』には以下のようなセリフがあります。ここにもこだわり派の南部人が。

それにジェラルドのおじいさんはいつも朝食の前に、その上にまだ霜がおりているうちに自分で薄荷をつまんでくるんですよ。おじいさんはウィルキーじいやにさえもけっしてそれにさわらせなかったんですよ ジェラルド お前おぼえておいでかい そして必ず自分でそれを集めてきて、自分でジューレップ酒を作ったんですよ。おじいさんは自分のジューレップ酒に関してはまるでオールド・ミスのようにやかましくてね、いちいち独自の製法に従って測っていましたっけ。おじいさんがその製法を教えたのはたった一人きりでしたが、それは
(ウィリアム・フォークナー著『響きと怒り』 高橋正雄訳 講談社文芸文庫)


 


 ついでに毎週見ているNHK大河ドラマ「龍馬伝」で言うと、スカーレットが白地に緑色の小花を散らしたドレスを着てトウェルブ・オークス屋敷でのバーベキューパーティー参加中に南北戦争勃発のニュースを耳にする一八六一年は、武市半平太が土佐勤王党を結成した年で、薩長同盟が締結される一八六六年はスカーレットはタラで貧乏ド真ん中、乾えんどうやいもを食べて凌ぎつつ南北戦争の終結を迎える年です。マーガレット・ミッチェルがうっとりノスタルジックに南北戦争前の南部の上流社会を描いたり、フォークナーの小説に昔の南部の生活の思い出をいつまでもひきずっている人物が登場したりする、その感覚が最初はいまいちピンと来ませんでしたが、日本の幕末あたりと思えば、そう昔のことでもないし、郷愁を覚える人がいるのもわかる気がしてきます。実際「龍馬伝」で土佐や薩摩や長州の藩士が燃えてるのを見て萌えてる人がいるわけですもんね。私も最初は燃えて見てましたが、私は富山出身なんで最近はだんだん薩長ばっかり好き勝手やってるのでムカムカしてきました。


   


  


 


 

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2010.06.17

ピクニック(1936年)

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リベンジのオムレツ。エストラゴン入り。

 『1999年の夏休み』日記でオムレツに泣いてから、何度も作りました。リベンジ用にオムレツ映画を探したら、当然ですが、いっぱい見つかります。しかし実は映画の中のオムレツは、丸くて平たいものや無造作に二枚折にしただけのものが多いです。もしかして木の葉型のトロフワ信仰があるのは日本人だけなんでしょうか!? 

 ジャン・ルノワール監督『ピクニック』に登場するオムレツは、プーラン亭のオヤジサンのフライパンに乗って登場します。エストラゴンがいっぱい散らしてあって最初はお好み焼きっぽいのですが、皿に取り分けるときには厚みのある木の葉型に近く変化し、プレーンオムレツっぽくなっていました。ルノワール本人が演じるこのオヤジサンが、テーブルの近くにやってくる間にオムレツを畳んだ、ということにして、私もエストラゴン入り木の葉型オムレツを作ってみました。生エストラゴンは近所になかったので、ドライタイプを使用しています。


 


 


 エスコフィエの『Le Guide Culinaire』によると、オムレツとは「固まった卵に包まれた、柔らかい炒り卵の特殊なものであり、それ以外の何ものでもない」(『エスコフィエ フランス料理』より 角田明訳、柴田書店刊)んだそうです。そして調理法は「慣れとコツ」としか書いてありません。ケチ! もっと教えて! しかしOmelette à la Chartres ou à l'Estragon(シャルトル風、あるいはエストラゴン入りオムレツ) のレシピはちゃんと載っていました。昔から食べられているんですね。


 


 そして失敗に失敗を重ねてガックリきているときに『ラルース料理百科事典』を見たら、次の点に注意すれば常に上手く作れると書いてありました。

・強火で調理する
・よく手入れした専用のフライパンを使用する
・卵は直前に溶き、あまりほぐしすぎない
・バターや脂肪をあまり多く加えない
・自信を持つこと

最後の注意点を見て思わず涙。これこそ、そのときの私に一番必要なものだったからです!


 


 失敗を重ねつつ、多少なりとも私のオムレツが進歩したのは、練習の成果というより、思い切って新フライパンを導入したからです。努力より金の力。私の多重構造ステンレススチールフライパンは大きく、ずいぶん傷んでいたので、思い切ってリバーライトのフライパン「極」20cmを買いました。鉄製で評判のよい他のフライパンの値段を思えば、安いと思います。


 


 鉄のフライパン……というと、私には悲しい思い出があり、苦手意識がありました。数年前、柳宗理の鉄のフライパンをいただいてとても嬉しく、さっそく使おうと思い「鉄錆び防止の塗料をすべて焼きってください」という指示通り汗ダラダラで変な匂いを嗅ぎながら頑張って焼きました。しかしハンドル付近が熱くて怖くてどうしても焼ききれないのです。塗料が残っていても人体に害はないのか心配で、販売店の東急ハンズに聞くともちろんメーカーに聞いてくれと言われ、では柳宗理に聞いてみようと思ったらお客様窓口もなし連絡先も非公開、説明書には「質問はいっさい受け付けませんよ~!」と書いてあってビックリ。「器具」じゃなくて「作品」という態度なんでしょうか、こりゃ。



 それ以来「鉄のフライパン=面倒くせえ=私には無理」という偏見があったのですが、極はサッと洗うだけですぐに使ってOKで、使用後のお手入れも簡単。説明書も丁寧で、ハンドル交換などサポートもちゃんとしてそうです。ジャパネットたかたみたいな気分になってきましたが……。しかしいまだにフライパンのハンドルをトントン叩いてオムレツを回転させるというのがどうしてもできません。運動能力のせいでしょうか。


 『肉体の冠』とか『我等の仲間』などのフランス映画に出てくる、川辺のレストランって素敵です。この映画のオムレツの舞台、プーラン亭も川岸にあります。そしてオムレツとともに気になるプーラン亭の食べ物は、アニス風味の酒、パスティスです。アンリ(ジョルジュ・ダルヌー)はパスティスを注いだグラスの上にアブサンスプーンを乗せ、さらにその上に角砂糖を乗せていました。『フレンチ・カンカン』にも同じようにしてアブサンを飲むシーンがいっぱいありましたが、角砂糖に水をたらすとジュワッと色が変わるこの不思議な飲み方を一度やってみたいです! モタモタしてるアンリに代わってグラスをセットし、水を注ごうとしたロドルフ(ジャック・ボレル)がガバッと窓を開けた瞬間、アンリはスプーンと角砂糖を手ではらってテーブルに落とし、パスティスに水を直接注いでガブッと飲みます。そして窓の奥にはブランコを大きく漕いでいるアンリエット(シルヴィア・ヴァタイユ)の姿が見えます。一瞬にしていろんなものが開けるような弾けるようなこの場面は、何度見てもテンションが上がります。


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2010.02.06

ヘンリー八世の私生活(1933年)

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初のローストチキン。鶏の姿勢が微妙……?

 『母なる証明』日記で宣言していたように、丸鶏の調理にとうとう挑戦しました。女子大生時代からの友人が美味しそうなローストチキンを焼いていたのがうらやましく、私も勇気を出してみました。約1kgの徳島産の若鶏です。丸鶏の生々しい重みにクラクラッとしながら、塩コショウして澄ましバターを塗ってオーブンへ。数十分後、焼き上がりの姿に感動したのですが、いかにも死体っぽい……? 焼きが甘いから? 鶏のポーズが悪いから? でも、とても美味しかったです。

 なぜローストチキンを作ったかというと、この映画の中でチャールズ・ロートン演じるヘンリー8世が、ローストチキンを手掴みでパクパク食べていたのが美味しそうだったからです。監督はアレクサンダー・コルダです。『女王エリザベス』『エリザベス』『ルートヴィヒ』『エリザベス・ゴールデンエイジ』『ブーリン家の姉妹』『歴史は女で作られる』に続く、王室シリーズです。



 映画はヘンリー8世の2番目の妻だったアン・ブーリン(マール・オベロン)の処刑日から始まり、さらにジェーン・シーモア(ウェンディ・バリー)、アン・オブ・クレーヴズ(エルザ・ランチェスター)、キャサリン・ハワード(ビニー・バーンズ)と王妃が変わり、最後にキャサリン・パー(エバリー・グレッグ)と結婚するまでを描くコメディです。

 『ブーリン家の姉妹』でハンサムなエリック・バナが演じたヘンリー8世とは違って、チャールズ・ロートンのヘンリー8世はデブデブでいやしくて好色なバカっぽい殿でした。当時のイギリスは自国の君主の先祖を笑っても怒られたりしなかったのでしょうかね。日本で例えるなら、戦前の昭和天皇の時代に女性関係が派手だったと言われる後水尾天皇を笑う映画を撮る感じ? うむむむ。映画が作られた当時のイギリス皇太子、歌手から貴族の人妻まで愛人がいっぱいいたジョージ8世の恋愛ゴシップなども反映されていたりするのでしょうか。

 まず気になるのが宮廷の厨房シーンです。大きなカマド、肉焼き機、鳥や野菜や魚など山盛りの食材に囲まれ、所狭しと働く調理人たちで活気のある厨房は、他の映画に比べれば当時の雰囲気がかなり再現されていると思われます。モリー・ハリスン著『台所の文化史』(法政大学出版局)によると、ヘンリー8世が使っていた宮殿のひとつであるハンプトンコートの記録には「広大な厨房、国王専用の台所のほか、ブドウ酒貯蔵室、肉類貯蔵庫、食器室、食料品貯蔵庫、食器洗い場、水差し器収納室、ソース調理室、蝋燭貯蔵室、香辛料室、家禽貯蔵室、糧食仕込み室」など料理のための部屋がたくさん出てくるそうです。現在、ハンプトンコート宮殿の厨房が一般に公開されていますが、それは国王専用台所ではなく使用人用の食事を作る厨房みたいです。ソースを作るための部屋があるなんてすごいですね。


Daidokoro
台所の文化史 (りぶらりあ選書)


 調理された鶏の丸焼きが正餐室に運ばれ、食事シーンが始まります。ヘンリー8世は「これがニワトリか?(You call this a capon?)」と言い、タンカードを傾けて鶏にビールをかけてゲップを一発。拳で鶏を叩いて汁を撒き散らし、足をちぎって手掴みで肉を頬張ります。食べ終ると骨をポイ! 行儀は悪いのですが鶏がとても美味しそうなところと、史実に忠実に人々がみんなナイフと手だけで食べているところが面白いです。

 ヘンリー8世の時代のローストチキンはどんな感じだったのでしょうか。レシピのようなものは見つけることができなかったのですが、1508年に出版されたウィンキン・ド・ウォード著『The Boke of Keruynge』によると、鶏肉(capon)がローストされているなら、塩とワインかエールで味付けするのがいいのだそうです。ビールをぶっかけていたヘンリー8世は正しいみたいですね。



 エルザ・ランチェスターは可愛いのに、バカなブスのふりをするアン・オブ・クレーヴズを演じたり、『フランケンシュタインの花嫁』で女モンスターを演じたり、面白い女優ですよね。タレントのさくらってエルザ・ランチェスターに似てるなあと思うのですが、最近あまり見かけませんね。ビリー・ワイルダー監督『情婦』でのチャールズ・ロートンとエルザ・ランチェスターの夫婦共演が好きだったので、この映画でも夫婦共演が見られて嬉しいです。


 



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2009.11.26

女王エリザベス(1939年)

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葡萄の女王さまとロザキの掛け合わせ。ロザリオビアンコ。

 丸善でブラブラ立ち読みしていたら、イギリス王室の晩餐会についてカラー写真入りで簡単にまとめられた本、キャスリン・ジョーンズ著『For the Royal Table ~Dining at the Palace~』に目が留まりました。その本によるとウィンザー城の晩餐室のテーブルは、長さが53メートルもあり、68枚のキューバンマホガニーの板で作られ、160人の客を招くことができるのだそうです。そして、その素晴らしく美しい大きなテーブルの上に、オジサンが大胆に乗っかっている写真が……。それは実はテーブルの天板を磨いている最中の様子で、オジサンの足にはちゃんと白い清潔な布が巻きつけられているのでした。まるで床を磨いているみたいです。そういう晩餐会の舞台裏が見られるところが面白い本でした。



 では映画の中で宮殿の食事シーンってどんな風に描かれているのだろうと思い、最近いろいろ見ているのが王室映画です。まず見たのはベティ・デイビスがエリザベス1世を、エロール・フリンがエセックス伯を演じた『女王エリザベス』です。監督はマイケル・カーティスです。ウォルター・ローリー役はヴィンセント・プライスが演じています。


 


 セットが安っぽいなあと思いながら見ていたら、1939年製作の映画なんですね。きれいなカラー映像なので、そんな昔の映画とは思いませんでした。よく考えると『風と共に去りぬ』と同じ年に製作されてます。ベティ・デイビスはスカーレット役の有力候補と言われてた女優だし、エセックス伯に横恋慕する侍女のペネロピー役はメラニー役のオリヴィア・デ・ハヴィランドだし、ベティ・デイビスは本当はローレンス・オリヴィエ(ヴィヴィアン・リーの恋人)にエセックス伯を演じて欲しかったらしいし、なんだか『風と共に去りぬ』とねじれた関係にある映画のように思われます。


 


 この『女王エリザベス』は、ケイト・ブランシェット主演の『エリザベス:ゴールデンエイジ』のエピソードの数年後の話です。映画の冒頭部、カディス遠征の勝利でエセックス伯が人気者となった1596年の登場人物の年齢は以下の通りです。映画を見ているだけでは気付きませんでしたが、30歳以上の年の差カップルです!

●エリザベス女王(ベティ・デイビス) 63歳
●エセックス伯(エロール・フリン) 30歳

 では1939年当時、それぞれの役を演じた俳優の年齢はというと以下の通りです。ベティ・デイビスは、『エリザベス:ゴールデンエイジ』のケイト・ブランシェット(当時36歳)よりも若いのに60代の役です。『イヴの総て』で中年女優を演じたときは実年齢も42歳でした。

●ベティ・デイヴィス 31歳
●オリヴィア・デ・ハヴィランド 23歳
●エロール・フリン 30歳
●ヴィヴィアン・リー 26歳(関係ないけど)

 ベティ・デイビスはエリザベス女王の肖像画に似せるために額の生え際を約5cm剃り、眉毛も上に移動したのだそうです。その成果はバッチリで、顔が恐いです! 前年の1938年に製作されたウィリアム・ワイラー監督の『黒蘭の女』では、南部の上流階級の娘を激しくかつ可憐に演じ、今で例えるならドリュー・バリモアを数倍美しく華奢にした風であったのに、何故、翌年にこんなむごい役を引き受けたのでしょうか!


Jezebel
黒蘭の女(VHS)


 この映画のエリザベス女王は、「イライラしながら食べ物をつまむ女」でした。ペネロピーが女王へのあてつけに老いた女の恋を歌ったときも、イライラしながらドライフルーツみたいなものをつまんで食べています。ペネロピーにヤキモチをやいてエセックス伯に悪態をつくときも、レモンピールをつまんでます。そしてエセックス伯が閣僚たちに煽られてアイルランド総督になってしまう会議でも、じゃらじゃらとマスカットの房を弄り、イライラしながら実をつまんで口に放り込んでました。そう考えると、この映画に限らず、ベティ・デイビスって手の演技が気になる女優かもしんないです。



2000年以上の歴史をもつブドウの純粋種!歴史上の人物にも愛されたという逸話の残る葡萄の名品...


 エリザベス1世が生きていた16世紀は、どんな果物を食べていたのでしょうか。1508年に出版されたウィンキン・ド・ウォード著『The Boke of Keruynge』(The Book of Carving:肉の切り方の本)を見ていると、執事とパンター(ワインセラーを管理する人)の義務について書かれた章に常備しておくべき食材が挙げられていて、バター、チーズ、リンゴ、梨、プラム、イチジク、生姜などと一緒に、葡萄もラインナップにありました。1542年頃に出版されたとされるアンドリュー・ボード著『The fyrst boke of the introduction of knowledge』にも葡萄が登場し、甘くて新鮮な葡萄は、胃と肝臓にいいんだそうです。そして干し葡萄や砂糖漬けのレモンなどドライフルーツ類も両方の本に出てきます。


 


 葡萄の季節が終わってしまう前に、せっかくなので葡萄を買いに行きました。近所のスーパーマーケットで、ロザキと「葡萄の女王」と呼ばれるマスカット・オブ・アレキサンドリアを掛け合わせた、ロザリオ・ビアンコを発見。皮も食べられる甘い葡萄でした。

 青木道彦著『エリザベス1世』(講談社現代新書)にはエセックス伯についても述べられていて、その中で紹介されているフランシス・ベーコンがエセックス伯に忠告した手紙「人気に頼らないようにすること、統御できない性質の人間だと思われないようにすること」などを見ても、かなり映画の人物像に近い、暴れん坊なんだけど魅力的な男性だったことが想像されます。青木先生は、エセックス伯を女王の恋人であったように描く作品もあるけど、わがまま息子のような存在だったのではないか、と書いておられました。本当のところはどうだったんでしょうね。


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2009.11.17

赤西蠣太(1932年)

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10月~3月限定発売の虎屋饅頭。

 『縮図』『独眼竜政宗』『青葉城の鬼』に続き、もう終わりにしたい宮城県シリーズ。しかし主人公が「お菓子好き」なので、やはり外せませんでした。寛文11年(1671年)に起きた伊達騒動を題材にしている映画のひとつです。伊丹万作監督・脚本、原作は志賀直哉、主演は片岡千恵蔵です。ちなみに『赤西蠣太』で松前鉄之助を演じている杉山昌三九は、『青葉城の鬼』で松平信綱を演じています。

 この映画を最初に見たのは今はなき大井武蔵野館です。LDも持っているのですが、これはかつて働いていた会社の社長が亡くなったときに形見分けでもらったLDコレクションの中の一枚です。


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赤西蠣太 [VHS]


 片倉小十郎の家来である赤西蠣太(片岡千恵蔵)が、身分を偽って江戸の伊達屋敷にスパイとしてもぐりこみ、亀千代を暗殺して藩主の座を乗っ取ろうとしている伊達兵部(瀬川路三郎)と原田甲斐(片岡千恵蔵・ニ役)の謀略を探るというお話です。
 
 食べ物は残酷シーンで活躍していました。この映画では、ご馳走を食べる人はみんな死んじゃうのです。按摩の安甲(上山草人)はおしゃべりなだけで悪気のない男なのですが、蠣太の秘密をペラペラ喋ったため、伊達安芸の家来である青鮫鱒次郎(赤澤力)に鮟鱇鍋をふるまわれて酔っ払い、殺されてしまいます。

 菅野小助(柴田新)は伊達兵部に亀千代の暗殺を命じられて失敗しただけなのに、角又鱈之進(志村喬)が牢屋へ持っていった兵部からの差し入れの饅頭で毒殺されてしまいます。この鮟鱇鍋も饅頭も原作にはありません。



 基本はみんなのんびりしている楽しい映画なのですが、安甲や菅野のような権力のない善良な人々が普段は食べられないご馳走を食べて殺されるという非情ぶりが、スパイ映画のサスペンスを盛り上げてます。二人が殺される瞬間をすべては見せない撮り方も緊張が高まって恐いです。

 ここで気になるのが、菅野に渡される木の箱に入った饅頭が美味しそうということです。白くて、真ん丸より少しだけ釣鐘に近く盛り上がった形がいいです。江戸の饅頭を妄想するなら、徳川家康の開府とともに江戸にやって来た塩瀬の薯蕷饅頭などを食べたほうがいいのかもしれませんが、『近世菓子製法集成』(東洋文庫)を読んでいると、紹介されている饅頭の皮のレシピの多くは酒饅頭なのです。それならば日本の酒饅頭のルーツに近いと言われている虎屋饅頭が、ちょうど今の時期(10月~3月)しか買えないので、せっかくなので食べてみました。白くて丸くて皮に弾力があって、いい香りで、餡の肌理が細かくて、「『一休さん』に出てくる饅頭ってこんなのかな~」と思ってしまう美味しさ美しさでした。おっと『一休さん』は江戸時代じゃないですね。


 


 『近世菓子製法集成』には複数の江戸時代の料理書が収録されているのですが、最も詳しい饅頭のレシピが載っているのは天保12年(1840年)に刊行された深川佐賀町の船橋屋織江の主人が書いた『菓子話船橋』です。『人と歴史をたずねる和菓子』(柴田書店)に載っている虎屋饅頭の大まかな作り方と比べると、もちろん細部は違うのですが、糯米と麹を発酵させ、その搾り汁と小麦粉を混ぜて皮を作り、餡を包んでさらに発酵させて、蒸すというのは同じでした。


Wagashi
和菓子―人と土地と歴史をたずねる (柴田ブックス)


 虎屋饅頭は井籠のフタを開けた途端、お酒のいい香りがします。『菓子話船橋』にも以下のように書いてあります。実は船橋屋のレシピは一回目に搾った酒を、もう一度、麹と飯に混ぜて、再び搾ってます。確かに酒の気が濃そうです。

酒の気、至って強ければ、饅頭の出来方も格段によし。酒の気薄く成るときは同じ種にても其品大におとれり


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のし紙は富岡鉄斎の筆によるのだそうです。かっこいい!


Toraya06
湯呑みは富山の伯母からもらった輪島の漆塗り。


 ちなみに『菓子話船橋』は、幸田露伴が明治34年(1901年)に書いた料理書ガイド「古今料理書解題」にも出てきます。露伴は明治27年(1894年)に腸チフスにかかり、難しい本を読むことを禁じられていたときに、広く料理書も読んだのだそうです。その記憶を呼び起こして書いたのが「古今料理書解題」だと説明しています。この文章中だけでも79冊も紹介しているのですが、実際はもっとたくさん読んだみたいですよ。変な人ですよね。


  


 欲に取り付かれた人物を成敗する話だから、死ぬ人とご馳走=食欲をセットにして映画の結末を暗示しているのでしょうか。では、お菓子好きの赤西蠣太は死ななくていいのでしょうか。蠣太が映画の中で食べるお菓子は、ハゼ釣りの舟の上でつまんでいる、小さな紙袋に入った軽焼だけです。軽焼は原作にも出てきます。そんな粗末な食べ物くらいでは、殺されないということなのでしょうか。LDに付いていた解説を読むと、現存しているプリントに欠けているシーンにおいても、蠣太は角又と一緒に菓子を食べるくらいで、手紙を盗み読みするために入った料理屋でも食後の姿しか映されず、手紙に封をするための米粒と白湯しか出てこないようです。蠣太は腸捻転になって生死の境を経験してますが、おやつと酒しか口にしていない人物は映画では死んでませんね。あ、女とイチャイチャしている人も死んでないですね。

 軽焼というお菓子も、今となってはよくわかりません。渡辺信一郎著『江戸庶民が拓いた食文化』(三樹書房)によると、軽焼というのは糯米に砂糖を混ぜて練った生地を焼いて、膨らんで割れた状態の菓子らしいです。菊岡沾凉著『続江戸砂子』などにも出てくるそうで、安永年間ごろ(1772年~)に流行ったらしいです。


 



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2009.09.11

孔雀夫人(1936年)

Clam_chowder01
白いクラム・チャウダーを作ってしまいましたが、実は……。

 『昼下がりの情事』はホテル・リッツでしたが、『孔雀夫人』は主人公のサミュエルがホテルの窓から見えるオベリスクを見て「ギロチンの跡に塔が建っている」と喜んでいるので、ホテル・ドゥ・クリヨンが舞台と思われます。しかし、こちらはたぶんスタジオ撮影で、本物での撮影ではないと思われます。ウィリアム・ワイラー監督、ウォルター・ヒューストン、ルース・チャタートン主演作品です。



 主人公のサミュエル・ダッズワース(ウォルター・ヒューストン)はデトロイトの自動車メーカーの社長でしたが経営が破綻し、ライバル自動車メーカーへ会社を売却します。働きづくめだったサミュエルは副社長の座と高給を断わり、ロンドンやパリを旅行することにします。年の離れた若い妻のフラン(ルース・チャタートン)も田舎町のジーニスでの生活にうんざりしていたので夫との旅行を喜びます。しかし見栄張りで自分の老いを認めたくないフランは、夫をないがしろにしてパリで贅沢と浮気三昧の生活に陥ってしまうというお話です。

 この映画には豪華客船のクイーン・メリー号も登場します。映画が公開された1936年はまさにクイーン・メリー号が航海を始めた年とのこと。船内はともかく摩天楼を背に出港する際の映像は本物ではないでしょうか。

 さて、ホテル・ドゥ・クリヨンで朝食中のサミュエルとフランの部屋に友人が訪ねてくるシーンでも、フランスの朝食のシンプルさが話題になってました。友人の来訪を知ったフランは慌てて「朝からこんなにたくさん食べるなんて知られたら恥ずかしい! だからフランス人を見習って朝食は控え目にすればいいのに」と言って、卵料理の皿にフタをして隠せとサミュエルに命じます。サミュエルはムッとして「私はアメリカ人だ」と反論します。ホテルは豪華でも、やっぱり朝食はシンプルなんですかね。こんなシーンでもフランは見栄張りぶりを発揮しています。

 そのようにフランはワガママで愚かで浮気を繰り返すのですが、“孔雀夫人”という美麗な女性ではなく、演じるルース・チャタートンは不細工で老けていて、かなりむかつきます。同じ頃に撮られた『模倣の人生』のクローデッド・コルベールと比べると、ドレスの着こなしもひどすぎる気がします。しかし、これはたぶんみんなでウォルター・ヒューストンを好きになるための映画なので、ひどい着こなしはわざとなのかもしれないですね。そして1929年には大恐慌が起きるし、ロスト・ジェネレーションの人々はパリに行くし、アメリカがイマイチな時代に、野暮ったいけど気骨のある旧世代のウォルター・ヒューストンを見て、みんなでアメリカの良さを思い出そうよという映画なんだろうなあと思われます。日本で特にヒットしなかったそうですが、今、廉価版DVDも発売されて手軽に見られるのは、淀川長治が蓮実重彦と山田宏一を「『孔雀夫人』も見てないの?」とバカにしたことで話題になったからなのでしょうか?


  

 フランと離婚する決意をしたサミュエルが、クイーンメリー号で知り合ったコートライト未亡人(メアリー・アスター)とイタリアで再会し、彼女のために作ってあげる料理がクラムチャウダーです。クラムチャウダーも、アメリカ男子のサミュエルらしい食べ物なのでしょう。しかし残念ながら現物は映らないので、サミュエルが赤白どちらのクラムチャウダーを作ったのかわかりません。デトロイトの出版社から1916年に発売された料理書『Nyal cook book, practical recipes that have been tested in actual use』(ジャネット・マッケンジー・ヒル著)にも赤白、両方のレシピが掲載されていました。私は白いクラムチャウダーを作ってしまいましたが、赤だったかもしれません。

riceball ジャネット・マッケンジー・ヒルのクラムチャウダー(白)
【作り方】
(tsp=4.92ml)
(1)1カップの冷水を貝に加えて、よく洗い、殻のかけらを取り除く
(2)(1)の水を漉して火にかけて沸騰させ、中に貝を入れる
(3)貝に火が通ったら貝を取り出しておく
(4)塩豚の厚いスライスから取った脂を熱し、厚めにスライスした玉ねぎを炒める
(5)(4)に1/3カップの小麦粉を加えてさらに炒める
(6)(5)に(3)を少しずつ加えて沸騰するまで熱する
(7)あらかじめ煮ておいた約470ml分のスライスしたジャガイモの上で、(6)を漉して混ぜる
(8)1tsの塩、1/2tsの胡椒を加えて熱する
(9)ジャガイモがやわらくなったら、3カップの温めた牛乳を加える
(10)好みで貝や調味料を加える

riceball ジャネット・マッケンジー・ヒルのクラムチャウダーNo.2(赤)
【材料】
(tbsp=14.7ml、tsp=4.92ml)
・ラード 112g
・塩 2ts
・熱湯 946ml
・胡椒 1ts
・厚めにスライスしたニンジン 1カップ
・トマト 1/2缶
・厚めにスライスした玉ねぎ 1カップ
・小さく切った貝 946ml
・厚めにスライスしたセロリ 1カップ
・粉状のタイム 1/2 ts
・厚めにスライスしたジャガイモ 3カップ 
・ビーフエクストラクト 1ts

【作り方】
(1)ラードを小さく切って脂が溶けるまで熱する
(2)熱湯、、にんじん、玉ねぎ、セロリを加え、やわらかくなるまで熱する
(3)ジャガイモと調味料、トマトを加え、火が通るまで熱する
(4)貝、タイム、エクストラクトを加える
(5)好みで2tbsの小麦粉を同じ量のバターで炒めたものを加える
(6)沸騰するまで、よく混ぜる
(7)最後にパセリのみじんぎりをふりかける

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2009.09.04

模倣の人生(1934年)

Pancakes03
パンケーキをめぐる怖ろしい映画!?

 『悲しみは空の彼方に』はこの『模倣の人生』のリメイクなんだそうです。見てみるとこりゃこのままではリメイクできんわ、という怖ろしいストーリーでしたよ。でも主演のクローデット・コルベールはいつも威勢がよくて好きです。あの眉は真似できませんが、繊細なリボンのついたブラウスからゴージャスなドレスまで服もとても可愛いです。ジョン・M・スタール監督作品です。


Imitation_of_life_2
IMITATION OF LIFE


 『悲しみは空の彼方に』の主人公・ローラは夫亡き後、舞台女優として成功します。『模倣の人生』の主人公・ベアトリス(クローデット・コルベール)は亡き夫のシロップ屋を継ぎ、歩き通しで営業して生計を立てていました。ふとした思い付きで一緒に暮らす黒人メイドのデライラ(ルイーズ・ビーヴァーズ)の祖母秘伝のパンケーキの粉を箱詰めにして売り出したところ大ヒットします。ベアトリスはデライラを共同経営者にして財産を分け与えようとするのですが、デライラは「おら何のことだかわからねえだ~いつまでもメイドとして奥様のめんどうを見させてくれ~」と言うのでした。えーっ! 誰かなんとか言ってあげて! なんだかスティービー・ワンダーの「Black Man」を思い出してしまいました。



 今、パンケーキ、流行ってますよね。本当はホットケーキのほうがなじみ深いですが、映画の中で、鉄板の上で直径10cmくらいの薄いパンケーキを焼いて、3枚くらい重ねてシロップをかけて食べているのを見ていると、確かに美味しそう~と思ってしまいます。

 アメリカの古い料理書では、パンケーキの材料はたいてい小麦粉、牛乳、卵、ベーキングパウダー、塩で、それらを混ぜて焼きましょうという感じです。サワーミルク、ナツメグ、砂糖、生姜を入れているものもありましたが、ほとんどシンプルなものです。でも中には、1838年に出版された料理書のように「卵が足りないときはビール、清潔な雪を入れて作れ」といったおかしなレシピもあったりして笑ってしまいました。

 ローリング・ストーンズの「LET IT BLEED」のジャケット写真のケーキを作ったイギリスの料理研究家、デリア・スミスの料理書を見ていると、彼女がケベックで出会ったという最高のパンケーキのレシピにはバターミルクが使われていました。バターミルクって何?と調べてみると、皆さんSACOのCultured Butter Milk Blendを使っているみたいですね。今回はそれを真似してSACOのレシピで作ってみました。そして富山の幼馴染が送ってくれた大場養蜂園の水島柿のはちみつをかけて食べました。水島柿は富山でしかとれない柿だそうで、深~~いコクがやみつきになるはちみつです。

riceball Best Buttermilk Pancake
【材料】※4インチ(約10cm)のパンケーキ約10個分
(tbsp=14.7ml、tsp=4.92ml)
・Butter Milk Blend 1/4カップ
・強力粉と薄力粉を半分ずつ混ぜたもの 1カップ
・グラニュー糖 1tbsp
・1 tsp ベーキングパウダー 1tsp
・ベーキングソーダ 1/2tsp
・塩 1/4tsp
・卵 1個
・水 1カップ
・サラダ油 2tbsp

【作り方】
・中くらいのボールでButter Milk Blend、小麦粉、砂糖、ベーキングパウダー、ベーキングソーダ、塩を混ぜる
・小さいボールで卵、水、油を混ぜる
・中くらいのボールに小さいボールの中味を入れてよく混ぜる
・フライパン温めて油を敷く
・混ぜた材料をフライパンに適量注ぐ
・表面に小さな泡が現れたら、パンケーキを裏返す
・裏返した後、1分間もしくは底がわずかに茶色になるまで焼く



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2009.07.30

浪華悲歌(1936年)

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千疋屋総本店の4倍濃縮レモネード。

 『夫婦善哉』『めし』に続き、大阪シリーズです。ちょっと行ってみたかったのがそごう心斎橋本店です。このそごう(昔は大阪本店)は昭和11年(1936年)に製作された溝口健二監督の『浪華悲歌』に登場する歴史のある百貨店なのですが、2009年8月いっぱいで閉店するのだそうです。古い映画にデパートが出てくると妙にキラキラして見えて、いいなあって思っちゃいませんか。



 しかし現在のそごうは『浪華悲歌』に映っている建物(設計:村野藤吾)ではありません。「じゃあ見に行ってもしょうがないじゃない」と言われて当然なのですが、当時のエレベーターの扉が今でも展示されていると聞いたので、閉店前に見ておきたかったのでした。このエレベーターも『浪華悲歌』に登場し、なんだか派手だなあととても印象的だったのです。エレベーターは店内に8基据えられ、「その扉は島野三秋の手になる豪華な象嵌の花鳥図であった」(『株式会社そごう社史』より)とのことです。展示されていたのは木の上に鳥が飛んでいるデザインで、細工と色彩が美しい扉でした。


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7Fのロイヤルサロン入口に展示してあった扉。


Sogou04
ちょっと傷んでましたが細工が美しいです。

 アヤ子(山田五十鈴)は麻居商店の電話交換手として働いていたのですが家計が苦しく、思いを寄せる西村(原健作)に相談しても冷たいので、店主(志賀廼家弁慶)の申し出に答えて彼の愛人になります。会社を辞めて妾の生活を送るアヤ子はある日、何も知らない西村と再会し、求婚されます。ちょうど麻居との関係が本妻(梅村蓉子)にばれたので、アヤ子は西村に真実を話してプロポーズを受けようと決心するのですが、今度は兄の学費が足りなくなって株屋の藤野(進藤英太郎)から借金をすることになり……という話です。

 アヤ子と西村が再会するのが、そごうの1Fです。その後2人はエレベーターに乗り、レモンが飾られたグラスに入ったドリンクを飲みながら語り合います。場所は2Fのパーラーです。『株式会社そごう社史』を見ると、このフルーツパーラーは千疋屋なのだそうです。白黒映画なので何を飲んでいるのかがわからないのですが、アヤ子と西村がストローでグラスの底をかき回しながら飲んでいるので、果汁が沈む飲物、レモネードのようなものなのではないかと思うのですがどうなんでしょう。

 ちなみに6Fの特別食堂には「純南仏料理 野田屋」が入り(「純」ってなんですかね?)、地下1Fには当時としては画期的な東西有名食料品特選街があったのだそうです。ちなみに東西の店は以下の通りです。こういうの見ると当時の雰囲気がわかって面白いです。

(東京)
梅ぼ志飴の栄太楼(日本橋)/羊羹の藤村(本郷)/矢羽餅のちもと(銀座)/ちぐさの筑紫(銀座)/雷おこしの評判堂(浅草)/江戸あられの胡萩堂(新橋)/番茶菓子の長門(銀座)/海苔の山本(日本橋)/海苔の守半(大森)/福神漬の酒悦(池の端)/佃煮の佃茂(築地)/佃煮の宝来屋(葭町)/果物の千疋屋(銀座)

(京都)
八ツ橋の聖護院/豆平糖の下里/五色豆の豆政/黄梁の鎰屋/松風の亀陸奥/千枚漬の大藤/銘茶の千切屋

 貧乏だ妾だと、あらすじだけ読むと古臭いと思うかもしれませんが、最新のデパート、オシャレなペンション、地下鉄、キャバレー赤玉のネオンが輝く道頓堀など1930年代の大阪のモダンぶりに目からウロコの映画です。キャバレー赤玉は『夫婦善哉』にも出てきました。豊かでモダンな妾の生活は破綻し、恋人には逃げられ、冷たい家族にはすき焼きにすら参加させてもらえず、新しい世界にも古い世界にも行けずに橋の上に佇むしかないアヤ子をはじめ、溝口作品のヒロインはいつも鼻っ柱が強すぎてポキポキポキッと折られてしまうのですが、どんなに転落しても一番大事なものは失わず誇り高く生きていくところが好きです。


Sogou02
現在のそごう心斎橋本店。



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2009.07.17

滝の白糸(1933年)

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6月のサクランボ。

 6月、故郷の富山の母から「米を送る」と連絡があったのですが、いざ届いてみると、大量のサクランボでした! 何故? でも、こんなにたくさんサクランボが家にあることなんて珍しいので記念撮影。あっという間に全部食べちゃいました。私がサクランボで思い出す映画は、昭和8年に作られた溝口健二監督の『滝の白糸』です。



 美貌で人気の水芸の女太夫、滝の白糸(入江たか子)が、両親を失って馬丁として暮らす士族の青年、村越欣弥(岡田時彦)に一目惚れし、彼に貢いで法律の勉強を続けさせてあげるのですが、仕事が減る冬に白糸が苦心して作った欣弥への仕送りの金を騙し取られ、殺人まで犯してしまうというお話です。

 この映画にサクランボは3回出てきます。1回目は、白糸が欣弥に仕送りを申し出て初めて結ばれる夜に、白糸が楽屋で食べています。

 2回目は、水芸の興業が減る冬枯れの時期、白糸が楽屋でサクランボを食べていると、可愛がっている撫子(瀧鈴子)が「姉さん、櫻んぼおくんな…」と言ってやってきます。白糸は「これはあたしの好物(いいひと)なんだから駄目…」と笑って断わり、「それより新蔵にうどんでも食べさせてお貰い」と言って撫子と木戸番の新蔵(見明凡太郎)の恋仲をからかいます。

 そして3回目は、岩淵剛蔵(菅井一郎)を殺して捕まった白糸が脱走し、撫子と新蔵の家にかくまわれているときに、「姐さんの大好きな櫻んぼですよ」と新蔵に差し出されて、震える手で1個食べるサクランボです。

 白糸は美人なのですが、男嫌いで男勝りという人物です。しかし欣弥にだけは女性らしい顔を見せるのでした。サクランボは白糸の可愛い純情や恋心を象徴する食べ物といえるでしょう。ちなみに泉鏡花の原作『義血侠血』(岩波文庫)にはサクランボは出てこないので映画独自の演出です。



 白糸が2回目、3回目にサクランボを食べているシーンは冬なのですが、そんな時期の北陸に実るサクランボはあるのでしょうか……? 


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真冬に出荷される極上ハウスさくらんぼ!鬼才・山本高裕氏が栽培するサクランボの逸品中の逸品...

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