1970年代

2011.09.04

ハロルドとモード 少年は虹を渡る(1971年)

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マシュー・ロウリーさんのレシピで作ったジンジャー・パイ。

 女性が人生のお手本のように憧れる女優、というとオードリー・ヘプバーンやジェーン・バーキンが挙げられることが多いですが、実際、リアルに憧れるのはルース・ゴードンのような人生ではないでしょうか。『奥さまは顔が二つ』で確認できる女盛りの時代は個性的な美女。そしてパートナーと共同で書いた『アダム氏とマダム』のシナリオでアカデミー脚本賞を受賞。年をとってからは『ダーティー・ファイター』でゴツい銃をぶっ放して暴走族のデカいバイクを破壊したり、『刑事コロンボ』で食わせ者のピーター・フォークに引けを取らない殺人犯の推理小説家を堂々と演じる元気な老婆。そんなルース・ゴードンが七十五歳のときに二十三歳の青年とベッドシーンを演じる映画が、このハル・アシュビー監督『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』です。ずっと見たかったのですが、七月に飯田橋ギンレイホールでやっと見ることができました。



 映画の主人公は大金持ちの母子家庭で育った十九歳のハロルド(バッド・コート)です。自殺ごっこ、葬式めぐり、霊柩車ドライブが彼の趣味で、母親(ヴィヴィアン・ピックルズ)にすら呆れられる毎日を送っていたところ、見知らぬ他人の葬式でモード(ルース・ゴードン)と何度も出食わすようになります。モードは、おかしなものに囲まれて暮らし、盗難車を乗り回し、世の常識とかけ離れた価値観で生きる不思議な老婆。そんなモードにハロルドはだんだん惹かれていきます。息子の異常行動に手を焼く母親は、結婚させようとしたり軍隊に入れようとしたり、あの手この手でハロルドを変えようとするのですが、彼はモードと過すことで初めて人生の楽しみや希望を知るのでした。ところがモードが八十歳の誕生日を迎えたある日…という話です。


 


 


 一時期流行した「かわいいお婆ちゃんになりたい」という欺瞞に満ちた言葉が大キライなのですが、モードはまさに“かわいい“お婆ちゃん。しかしモードがかわいいのは、暗い過去に奪われた青春を取り戻すべく、七十九歳でありながら少女のように生きずにはいられないせい。もちろん少女期と同じく、モードのワガママな暴走老人期が長く続かないことは言うまでもありません。そのように初めから結末がひとつしかない切ない話でありながら『ハロルドとモード』はあくまでもバカバカしいコメディ。息子を追い詰める一番の“悪役”であるはずのハロルドの母親ですら、常軌を逸したリアリストぶりがおかしくて、登場が楽しみでした。ひとつひとつにジバンシーのマークの付いたヒダがいくつも重なった帽子を被ったりする彼女の成金ぽいオシャレも憎めません。高尚でも大仰でもなく、映画そのものがモードの好きな小さい花のようでした。


 


 初めてモードの変てこなトレーラーハウスに遊びに行ったハロルドは、“においマシン”でローストビーフの香りなどをかがされた後に、ジンジャー・パイとカラスムギ茶をご馳走されます。テーブルの上には黄色っぽい焼きっぱなしのシンプルなパイと、熊の形の容器に入ったハチミツが置いてありました。ジンジャー・パイ? 聞いたことないなあと思い、アメリカの定番の料理書などを調べてみても、「ジンジャー・アップル・パイ」などはあるのですが、単なる「ジンジャー・パイ」はどこにも見つかりません。モードが作るものなのできっと掟破りな菓子なのでしょう。と、そうこうしているうちに、カリフォルニア州サンディエゴに私と同じく『ハロルドとモード』を見て「ジンジャー・パイ?」と思った人物を見つけました。それはフリーのビジネスライターのマシュー・ロウリーという人で、彼はレシピを見つけられなかった果てに、アメリカ南部に伝わるチェスパイを元に自分なりのジンジャー・パイを作って、blog「Rowley's Whiskey Forge」でレシピを公開しています。


 


 さっそく私も実践。パイ皮はとりあえずいつものファニー・ファーマー著『Boston Cooking School Cook Book』の一九一八年版(初版は一八九六年)のレシピです。

birthday ファニー・ファーマーのパイ生地
【材料】
・中力粉 100g
・バター 125g
・水 65ml

birthday マシュー・ロウリーさんのジンジャー・パイ
【材料】
・みじん切りの生姜 1/4~1/3カップ
・ラム 74ml
・砂糖 1.5カップ
・無塩バター(室温にしておく) 大さじ8 
・塩 少々
・卵 3個
・中力粉 大さじ2.5
・生クリーム 1/4カップ
・バニラエキストラ 小さじ1
・レモンの皮 小さじ1

【作り方】
・小さいボウルなどに入れて生姜をラムに1時間以上漬けておく
・バターと砂糖をクリーム状になるまでかき混ぜる。卵を1個ずつ加えてその都度よく混ぜる
・ラム漬け生姜など、残りの材料をすべて入れて十分に混ぜる
・パイ皿に敷いたパイ生地に混ぜたフィリングを注ぎ、180℃に余熱したオーブンで50分焼く
・だんだん膨らんできて、真ん中に火が通るまで焼くが、少し緩くてもかまわない
・焼き色が濃くなりすぎるようだったら、アルミホイルをかぶせる
・温めて食べる場合はしっかり泡立てたホイップクリームを添える

 あんまりたくさん食べられないのでパイ生地は上記レシピで作ったものの半分だけを使って、フィリングは三分の一の量の材料を混ぜて作りました。焼き色がつきすぎたらおいおいアルミホイルをかけようとノンビリしてたら、あっと間に焦茶色に! モードが作ったジンジャー・パイもマシュー・ロウリーさんの作ったものも、私が作った焦茶色のパイと違ってもっと黄色です。そしてマシューさんの解説にあるように、焼いている間はぷくっと膨れ、焼きあがり直後は火が通っていてもフィリングは液体っぽくグズグズしてました。それが粗熱をとっている間にしぼんでそれらしい感じになります。けっこうな砂糖の量を投入するので私はそれ以上何も添えずに食べましたが、温めて食べる場合も、冷たい場合もホイップクリームを添えた方が美味しいと思います。用意しなかったのを後悔しました。


 


 


 

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2011.05.22

ダウンタウン物語(1976年)

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映画の中のパイは“時代遅れの武器”として出てくる。

 日記じゃなくて“月記”状態になってます。『ローラーガールズダイアリー』『沈黙の戦艦』に続き、わたしのパイ熱はまだ続いているのですが、こちらも東日本大震災前に見た映画、焼いたパイです。パイにかこつけて見たのは、全キャストが子ども!という奇想天外のギャング・ミュージカル、かつ豪快な投げっぷりが楽しいパイ投げ映画で、アラン・パーカー監督の劇場用長編映画デビュー作です。



 舞台は禁酒法時代のアメリカ。マフィアのボスのファット・サム(ジョン・カッシージ)とダンディ・ダン(マーティン・レブ)が抗争を繰り広げるイタリア人街で、流れ者のギャング、バグジー(スコット・バイオ)と売れない歌手のブラウジー(フローリー・ダガー)が出会います。旧式の武器「パイ」から新兵器「漆喰銃(SPLURGE GUN)」に乗り換えることが抗争の明暗を分けると悟ったサムは新兵器の大強奪を計画。ブラウジーをハリウッドに連れて行きたいバグジーもその計画に協力することになります。しかしサムの情婦である歌手のタルーラ(ジョディ・フォスター)の横槍やダン一味の反撃が始まり、大決戦のときを迎えるのですが……という話です。


 


 マフィアの情婦を当時十四歳のジョディ・フォスターが色気と貫禄で演じているのを筆頭に、キザな流れ者も太っちょのボスも勝気な女性歌手も黒人の掃除夫も子どもたちが堂々と演じていて立派です。そして他のアラン・パーカー作品も見るとそれが監督の手腕の賜物であることがよくわかり、たいしたものだと思います。『ダウンタウン物語』の子どもたちだけでなく、『ザ・コミットメンツ』(一九九一年)でアラン・パーカーが撮ったダブリンの名も無き若者たちの素晴らしさなども忘れられません。『ミッドナイト・エクスプレス』(一九七八年)、『バーディ』(一九八四年)、『ミシシッピー・バーニング』(一九八八年)を撮った後に『ザ・コミットメンツ』のようなフレッシュな作品を撮るなんてちょっと珍しい監督のように感じます。


 


 その他、『ダウンタウン物語』はデビュー作にして既に、その後の作品にも通じる“アラン・パーカー印”の魅力にあふれていました。生活感のある貧しい街の通り、生き生きとした群集、生々しい動物たち、登場人物の分身のような乗り物……。特に乗り物については、自動車が欠かせないマフィア映画において「すべて子どもたちが演じる」というこの映画のルールを死守するために、足こぎ自動車をちゃんと用意して撮っているところは傑作でした。


 


 クリームをぶつけられる=死という設定になっており、最後に子どもたちがクリームだらけになる痛快な“大量殺戮シーン”があるのですが、そんな物騒な映画をどうやって終わらせるのかについては、ぜひ自分の目で見てみてください! 最後までふざけまくっていながらも、映画は子どもたちへの温かいメッセージに満ちています。ところで、漆喰銃のことを調べていたら、バカなものを見つけてしまいました。なんとこの『ダウンタウン物語』(原題は『Bugsy Malone』)の「漆喰銃」を自作して貸し出しているサイトがあるのです。銃の弾丸となるクリームの缶、パイに使うクリームの泡の缶も販売してます。うーん。レンタルしてみたい! ちなみにバグジーを演じるスコット・バイオ君は後に『超能力学園Z』のバーニー君を演じることになります。


 


 私のパイ修行はまだまだ続いています。実は『沈黙の艦隊』のパイのレシピでは、他のレシピなどを参考にしてバターを生地に練り込みやすいように「バターをやわらかくしておく」と書いてしまいましたが、本物のファニー・ファーマー著『Boston Cooking School Cook Book』の一九一八年版(初版は一八九六年)には実はそんなことは書いてないのです。そこで今回はレシピ通り、大さじ2のバターを取り置いた後、残りのバターを冷たくて固いまま麺棒で叩いて、1.5インチ(約3.8cm)の厚さの円状に整え、生地の上に乗せて作ってみました。問題なくサクサクのパイになりましたが、焼き方もちょっと変えてみたので、バターを緩くするのと冷たく固いままにするのとの違いはちょっとよくわかりません。東日本大地震後、なかなかオーブンを使う気になれず、バターの値段も上がってしまったので、菓子を焼かなくなってしまったのですが、また節電しつつパイ研究してみたいと思います。


cake カスタードクリームフルーツパイ

【材料】
◎パイ生地
・中力粉 100g
・バター 125g
・水 65ml

◎カスタードクリーム
・卵黄 2個
・バニラビーンズ 1/3鞘
・グラニュー糖 50g
・牛乳 200ml
・薄力粉 18g

◎メレンゲ
・卵白 2個
・砂糖 40g

◎季節の果物

【作り方】
(パイ生地)
・大さじ2のバターを取り分けておく
・残りのバターを麺棒で叩いて、厚さ約4cmの円状に整えて打ち粉をした板の上に置いておく
・中力粉に取り分けておいた大さじ2のバターを混ぜ、冷水を加えて指で全体になじませてひとかたまりにする
・打ち粉をして5分間こねる
・固くしぼったふきんかサランラップで包んで5分間置く
・めん棒で生地を約5mmの厚さの横長の長方形にする
・バターを生地の真ん中より下に置き、上部の生地を折ってバターを包み、しっかりと端を押してできるだけピッタリと閉じる
・生地の右側をバターの上に折り畳み、左側をバターの下に折り畳み、生地を180度回転させて、固くしぼったふきんかサランラップで包んで5分間ねかせる
・打ち粉をしながらめん棒で約5mmの厚さにのして、今度は縦長の四角形にする
・再び端から真ん中に向って3層に折り畳み、生地を180度回転させて、固くしぼったふきんかサランラップ包んで5分間ねかせる
・横長にのす手順と、縦長にのす手順を1回ずつ繰り返す
・再び横長にのして、両端を中央に2回ずつ折り曲げて4層を作り、冷蔵庫で一晩ねかせる
・パイ皿に生地を敷いてパイ重石を乗せ、200℃のオーブンで20~25分焼く
・パイ重石を外し、あと10分くらい、底に焼き色が付くまで焼く

(カスタードクリーム)
・バニラビーンズの鞘から種をこそげ取り、牛乳を沸騰直前まで加熱する
・卵黄と砂糖を泡立て器で白いクリーム状になるまでかき混ぜる
・薄力粉を加えて混ぜてから、漉した牛乳を少しずつ加えながらその都度混ぜる
・混ぜたものを漉してから再び鍋で加熱する
・鍋の底が焦げないようによくかき混ぜる
・もったりして固まってきても、そのまましばらく絶え間なくかき混ぜたら滑らかになる
・バットに移し、表面をピッタリとサランラップで覆い、バットを冷水につける
・冷えたら冷蔵庫で冷やす
・パイにカスタードクリーム、季節の果物、生クリームなどを好みで乗せる


 


 


 


 


 


 

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2011.02.26

フォロー・ミー(1972年)

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クリストフォルーが食べていたのはトルコのマカロン?

 周防正行監督『Shall we ダンス?』が公開された頃、ずいぶん年上の映画好きの人に「柄本明が演じる探偵の部屋に貼ってあったポスターは『フォロー・ミー』っていう映画のポスターで、すごくいい映画だったんだよ」という話を聞かされたことがありました。それから頭の片隅にずっと『フォロー・ミー』があり、折にふれVHSやDVDを探してたのですが、二〇一〇年にDVDが発売され、「午前十時の映画祭」のラインナップにも加わったので、私も約十五年越しの念願が叶って見ることができました。これはやっぱり映画評論家の町山智浩さんがアメリカ映画特電のポッドキャスト(二〇〇九年十月に配信)で紹介したお陰ではないでしょうか? ずいぶん前ですが、私が新卒で入社した会社に町山さんがいらしたことがあり、町山さんファンの女として挨拶させてもらったことがあります。私はちょうど忙しくて会社に連泊していたので、髪の毛ペッタリ・前日の化粧流用・ブスメガネという三重苦だったのですが、「僕には女性のファンが全然いないんですよ。イベントやっても野郎ばっかりで」と優しくお話してくださったのは忘れられない思い出です。


 


 


 ロンドンで会計士のチャールズ(マイケル・ジェイストン)と出会って結婚した、カリフォルニア生まれのベリンダ(ミア・ファロー)が主人公です。世界中を自由気ままに放浪してきたベリンダは、チャールズが属するアッパーミドルクラスの生活になじめず、次第に夫婦の仲にも溝が生じます。家も留守がちなベリンダの浮気を疑ったチャールズは、探偵事務所に彼女の素行調査を依頼します。ところが事務所の依頼でやってきたドジで陽気な探偵のクリストフォルー(トポル)はベリンダを尾行するうちに、彼女と無言の交流が始まり…という話です。


  


 ポアロシリーズなどを読んでいると、そんな謎解き小説なぞ何が面白いのかとバカにされることがあるのですが、謎解きやトリックが楽しくて探偵小説を読んでいるんじゃないやいと言いたいです。私がポアロやコロンボに感じる魅力は、彼らが都市を自由に闊歩してイギリスの上流社会やハリウッドのセレブ族に紛れ込み、論理的・科学的な目で虚飾のない容疑者の真実の姿を見極め、硬化した社会から彼らを解放してあげるところです。いっそのこと、事件なんか起きず、ずっとオムレツの作り方を指南したり、お気に入りのレストランを目指して街を歩いたり、イギリス料理の愚痴を言ったり、ビールを断ってシロ・ド・カシスを飲んで呆れられたり、若い女の子の悩みを聞いてあげたりするだけのポアロを読んでいたい…などと思ったり。この『フォロー・ミー』はまさに事件など起きない、謎解きやトリックのない探偵物語、という幸せな映画でした!


 


 クリストフォルーは全身真っ白な衣装でベスパに乗ります。その姿が、全身真っ黒でベスパに乗る「探偵物語」の松田優作を彷彿させ、バイアスがかかって、ますますクリストフォルーに愛着を覚えてしまいます。町山智浩さんもアメリカ映画特電で、クドーちゃんの衣装はこのクリストフォルーに影響を受けていると言ってました。そんなクリストフォルーを演じるトポルは見るからに移民(テルアビブ生まれのイギリス人)で、イギリスのベルギー人であるポアロ、イタリア系アメリカ人のコロンボ、アイルランド系イギリス人のシャーロック・ホームズといった人気探偵と同じ都市のマイノリティです。外国籍で生まれた松田優作がクリストフォルーを反転させたような衣装に身を包んで探偵を演じたなんて、「探偵物語」には私が見ていた楽しさ以上の何かが投影されてたのかな、などとボンヤリ考えていたところ、李建志著『松田優作と七人の作家たち《『探偵物語』のミステリ》』(弦書房)という本が発売されていたので買ってみたら面白くていっきに読んでしまいました。『フォロー・ミー』からの影響については特に触れてありませんでしたが、「探偵物語」における主要脚本家と原案者の創造性を明らかにしつつ、ブラジル移民や中国人、沖縄出身者、混血児、貧しい地方出身者など多くのマイノリティが登場するドラマにも関わらず在日朝鮮人が「出てこないこと」を浮き彫りにする点が興味深く、今もし松田優作が生きていたら…という著者の結びの文章には涙してしまいました。


 


 また『フォロー・ミー』の面白さには、小谷野敦先生が指摘するような探偵の要素も無視できないと思われます。

不能という条件のために、ブレットを巡る男たちの争いや、ごく若い闘牛士とブレットの恋愛に対して、ジェイクは一貫して傍観者でなければならない。それは、いわばサンチョ・パンサの立場でもあるが、シャーロック・ホームズやエルキュール・ポワロの、そして夏目漱石の『彼岸過迄』の敬太郎のような「探偵」の立場である。私たちは、ホームズやポワロは「恋愛」をしないのだろうか、とふと考えることがある。けれど、彼らの魅力は、まさに恋愛をしないことにあるのである。そして遡れば、近代における探偵の濫觴であるオーギュスト・デュパンは、女の正体を知ろうと努めて破れたポオが生み出したものだったではないか。
(小谷野敦著『聖母のいない国』 第三章 アーネスト・ヘミングウェイ『日はまた昇る』 不能であることの希望)


 


 クリストフォルーはベリンダに恋をしますが、あっさり身を引きます。自分の恋には淡白で、まさにキューピッド役です。ところが本来のクリストフォルーは背が高くヒゲを蓄え浅黒く胸毛も生えてて柔道(?)も強くて、不能者どころかとても男性的です。そんな彼のイメージを、恋をしない傍観者(米国向け公開タイトルはまさに『The Public Eye』)、愛すべき探偵として完成させるアイテムこそ、彼が異常なまでに食べ続けるお菓子!ではないでしょうか。茶色いお煎餅のようなマカロンをポリポリかじりながらの登場に始まり、ヨーグルト、オレンジ、グレープフルーツ、スコーン、ペパーミントサンデー、飴、映画館の前の露店のケーキ、コーラ、赤いアイスキャンデーなど、街を歩きながら、ベスパに乗りながらクリストフォルーは絶え間なくお菓子を食べます。そして最後にはチャールズに、ベリンダを取り戻したいのなら自分と同じように彼女を尾行してお菓子を食べろと言うのでした。放って置かれた妻が夫の愛を取り戻すだけの映画じゃなく、お菓子を食べて街を散歩しながら階級差、国籍差、性差までフワリと飛び越えることができるんじゃないかと思わせてくれるロマンティックな映画です。


  


 マカロンについてとても不思議に思うのは、古い料理書の中で菓子の材料としてよく使われている、というところです。プディングやケーキやトライフルなどのレシピに「マカロン六個をバラバラに砕いて入れろ」といった手順を本当によく見かけます。あとマカロンとひとくちに言っても、ラデュレのマカロン、クリストフォルーが食べているマカロン、河田勝彦シェフが『伝統こそ新しい』(朝日新聞出版)で紹介しているナンシーのマカロンは全然違います。と、ここでいろいろ調べていたら、クリストフォルーが食べているのはどうやら「Acıbadem kurabiyesi」というトルコのマカロンみたいです! それがなかなかわからず、日本で一般的なマカロンをネチネチと作ってしまいました。


 


 舞台がイギリスということで最初にペラペラと調べたのは、ビートン夫人が家事一般についてまとめて一八六一年に出版した『MRS. BEETON'S BOOK OF HOUSEHOLD MANAGEMENT』です。マカロンといっても三種類もレシピが載っていて、(1)アーモンド、砂糖、卵白を混ぜたものを中火で温めてから丸く整えて焼く (2)アーモンド、砂糖、卵白、小麦粉、オレンジウォーター数滴を混ぜたものを丸く整えて焼く (3)アーモンド、砂糖、卵白をぜたものを丸く整えて焼く という内容でした。ちなみに(3)のレシピは下記の通り。本の中のビスケット一覧の図版を見ると「Macaroon(Itarian)」と書いてあって、表面にひび割れのある丸いクッキーのような絵が描いてあり、私たちがマカロンだと認識しているプクッとしてエピ(フリル)の付いている物体ではありませんでした。

cake ビートン夫人のマカロン

【材料】
・挽いたスイートアーモンド 227g
・粉砂糖 340g
・卵白 3個

【作り方】
砂糖と挽いたアーモンドを板の上でよく混ぜてから大きな大理石か磁器のすり鉢に入れ、卵白を加え、滑らかなペーストになるまで擦る。固く角が立つようになったら準備が整ったしるし。もしペーストが充分に擦られたかどうか不確かならば、試しにひとつマカロンを作ってオーブンに入れてみてください。もし大丈夫なら、清潔な天板の上に敷いたクッキングシートに置いて、スプーンもしくはしぼり袋で形を整えて、2、3のアーモンドのかけらをそれぞれのてっぺんに乗せる。それからオーブンで焼く。

 ビートン夫人のマカロンは、ピエール・エルメやラデュレのレシピに比べれば、アーモンドも砂糖も1.5倍といったところです。私はビートン夫人の砂糖の量に腰がひけてしまったので、現在いろんな人が料理書に掲載したり、雑誌で発表したり、ネットで公開したりしているレシピの平均的な材料の配合で作ってみました。


 


cake 平均的なマカロン

【材料】
・卵白 2個
・アーモンドプードル 80~100g
・グラニュー糖 30g
・粉糖 130g

【作り方】
グラニュー糖と卵白を混ぜて角が立つほど固く泡立てたメレンゲを作る。アーモンドプードル、粉糖をふるいにかけてメレンゲに混ぜる。粉っぽさがなくなるまで混ぜる。天板にクッキングシートを敷いて、その上に仕上がりの大きさの少し小さめに生地を丸くしぼる。触っても生地が指につかなくなるまで乾かす。オーブンを130℃で20分、170℃で3分焼くと、薄茶の焼き色がつく。あまり焼き色をつけたくない場合は120℃で20分、アルミホイルをかけて160℃で3分焼いてもいいが、生焼けのままの場合は様子を見ながら焼き時間を延長する。


 


 


 

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2010.10.27

トラック野郎 熱風5000キロ(1979年)

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桃さんの定番。ニラレバ炒め、ライス大盛り、豚汁。

 十月の連休に富山へ帰省しました。二〇〇八年に、百歳で亡くなった祖父の葬式に出席するためにトンボ返りで帰って以来です。久々の富山は、店も家も道路も駅も線路も増えて、なんだか賑やかになってました。

 わが故郷の富山県で撮影された映画のひとつに、鈴木則文監督のエッセイ『トラック野郎風雲録』(国書刊行会)も今年発売され、ブームがひそかに再燃している(?)トラック野郎シリーズの第九弾『トラック野郎 熱風5000キロ』があります。クライマックスはなんといっても立山黒部アルペンルートをデコトラが走るシーン! これを撮るために富山県が映画の後半の舞台に選ばれたに違いないです。しかし映画の設定では桃さんが立山黒部アルペンルートの“雪の大谷”を無許可でズンズン走ってますが、さすがに現実世界ではその通り撮影するのは無理だったようで、車窓から雪の壁を撮った映像と、桃さんが普通の雪道を走る映像とが交互につながれ、ごまかされています。


  


 このシリーズ第九弾では、ひょんなことから桃次郎(菅原文太)とジョナサン(愛川欽也)が、玉三郎(せんだみつお)を訪ねてやってきた長野で働くことになります。木曾谷の現場で桃次郎が恋をするのが、トラックの手配を総括している勝気な“山猫のお夏”(小野みゆき)です。なにかと反抗的なノサップ(地井武男)とぶつかり合いながらも、桃次郎は運転手仲間たちと親交を深めつつ厳しい現場で働いていましたが、台風の接近による激しい雨のために地盤が緩み、元映写技師のトラック野郎“安曇野”(工藤堅太郎 )が材木の下敷きになって死亡する事故が起きてしまいます。ひとり残された娘の陽子(大熊なぎさ)をジョナサン一家で引き取るか桃次郎が育てるかと相談していたところ、死んだと聞いていた陽子の母(二宮さよ子)が富山県の魚津で見つかり……という話です。


 


 『トラック野郎』は正月の深夜などにテレビで放送されていましたが、子どもの私には大人の世界に思えて怖かったです。あんな荒くれ男たちの中に入ったら、絶世の美女か互角に張り合える猛女でないかぎり、なめられて食い物にされる!と。この第九弾なんて、紋付袴の桃次郎(菅原文太)と角隠し姿のトルコ嬢のテル美ちゃん(亜湖)が金屏風の前で写真撮影するシーンから映画が始まるのですが、田舎の父が結婚はまだかと心配するから、いい人見つけてゴールインしちゃったとウソをつくために桃次郎にお願いして、タダで三発やらせてあげるかわりに結婚写真だけ撮らせてもらったのと言ってテル美ちゃんが笑うのですよ! 悲しすぎ~。えーん! 子どもにはシビアすぎる冗談です。大人になった今では桃さんやジョナサンの優しさはわかるようにはなりましたが……。


 


 大衆食堂で桃さんがいつもオーダーするのが「ニラレバ炒め・ライス大盛り・豚汁」です。この映画の中でも、玉三郎と再会する食堂で注文していました。一緒に「馬刺し二人前」を注文するところが長野ならではです。山田吾一が主人を演じる食堂の壁には玉子スープ、カレーライス、鳥のから揚げ、親子丼、山菜定食、手打ちそばなどのメニューの文字がありましたが、現在のように肉が安くない一九七〇年代においては、体力を消耗するトラック野郎の桃さんや植木職人のバカボンのパパが手っ取り早くスタミナをつけられるメニューといえばニラレバ炒め、ということだったのでしょうか。私はTVアニメ「元祖天才バカボン」にはまった子どものひとりでしたが、バカボンのパパの好物“レバニラ炒め”がわが家の食卓に並ぶことはなかったので憧れの食べ物でした。ニラレバ炒めを食べる度に、外食へ行くと必ず父に「レバニラ炒めを注文して~」としつこくねだっていたことを思い出します。


 


 借金返済のために水商売の女に堕ちてしまった陽子の母は、せっかく魚津までやってきた娘に冷たく接します。しかしバーを辞めて出直す決心をした彼女が、魚津港から出る漁船に乗って故郷の石垣島に帰ると知った桃さんは、陽子を連れて魚津に向かいます。長野から立山黒部アルペンルートを通って富山へひた走る桃さんに、ジョナサンから無線連絡が!

桃さん、国道八号線はまずいよ 上市バイパス赤浜地点から右折して旧街道に入ってくれ!

 それがどのあたりなのか運転免許の無い私にはわかりません! しかし桃さんは「蜃気楼の町・魚津市」という看板のある道を右に曲がり、JR魚津駅前を通って魚津港に向かっています。魚津駅のロータリーには「ひかりを 北陸に!!」という新幹線誘致を求める看板が! 北陸新幹線など都市伝説みたいなもんかと思っていましたが、今回の帰省で見た富山はまさにそこかしこで新幹線工事の真っ最中でした。残念ながら魚津には止まらないみたいですが……。


 


 OLとはまったく縁の無いトラック野郎たちの世界。でも、地味な田んぼの中を走るド派手なデコトラ、ネオンビカビカで夜の街を走るデコトラ、真っ白な雪山を走る極彩色のデコトラ、夜空の下に火を焚いて行われるトラック野郎の葬式にズラッと並ぶデコトラの美しさには女性でも血が騒ぐはずです。あれは、青森のねぶたとか祇園の山車とか魚津のたてもんとか砺波の夜高とか、祭りでビカビカ光る大きなものを見て興奮する感覚に通じるのではないでしょうか。そして生き生きとふざけている由利徹や南利明、前川清、志賀勝、山田吾一、笑福亭鶴光などを見ていると、昔の映画は脇役陣を見るのが本当に楽しいなあと思います。桃さんの最低なセリフ「酔いつぶれたオメエのケツからズブリぶち込むぞ!」の後のたこ八郎のひとことも好き。あと、陽子役の大熊なぎさちゃんがNHK「夢千代日記」で秋吉久美子演じる芸者の金魚の娘のアコちゃんだったので予期せぬ再会にビックリしました。


 


 ちなみに帰省中、桃さんが一番星号を走らせていた上市町にある大岩山日石寺に行ってきました。この寺には平安時代中頃に作られたとされる磨崖仏があります。『劔岳 点の記』にも出てきた大迫力の不動明王です。かなり近付いて見ることができるのですが、千何百年もの時を経て今、自分の目の前にあるのかと思うと怖くなって足がすくんでしまいました。帰りは境内手前にある食堂で名物のそうめんとところてんと山菜の煮物を食べてきました。


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大岩山のいい感じの食堂で休憩。


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名物だけあって美味しい。そうめん、ところてん、山菜の煮物。


Toyama
とやま映画100年

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2010.07.30

料理長殿、ご用心(1978年)

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ラ・ボンブ・リシュリューもどき。毎日暑いですね。

 私が子どもの頃、富山には民放が二つしかありませんでした。毎日たくさんのチャンネルで映画が放送されている都会の子どもだった人の話を聞くと羨ましいなあと思います。そんな文化果つるところ(?)富山の昼下がりにテレビで放送された映画のひとつが、このテッド・コッチェフ監督『料理長殿、ご用心』です。これを見て、小学生だった私と姉は、すっかりジャクリーン・ビセットに夢中になったものです。そんな思い出の映画を、『ウォレスとグルミット ベーカリー街の悪夢』のついでに久々に鑑賞してみました。


Greatchefs
料理長殿,ご用心 [VHS]


 バッキンガム宮殿の晩餐会でスペシャリテの「ラ・ボンブ・リシュリュー」を作るためにアメリカからイギリスへやってきたナターシャ・オブライエン(ジャクリーン・ビセット)は、美食雑誌「ルクルス」編集長のマックス(ロバート・モーレイ)や、元夫のロビー(ジョージ・シーガル)と再会します。晩餐会は成功に終わるのですが、世界に名だたるシェフであるルイ(ジャン=ピエール・カッセル)、ゾッピ(ステファノ・サッタ・フローレス)、グランヴィリエ(ジャン・ロシュフォール)、ムリノー(フィリップ・ノワレ)が次々と狙われる連続殺人事件が起き、すべての事件の第一発見者になってしまったナターシャに容疑がかけられるという映画です。


 


 見どころはなんといっても、曲者揃いの名シェフたちを曲者揃いの俳優たちが演じるところと、殺人が各シェフのスぺシャリテのレシピに沿って行われるところです。ベニスのホテル・チプリアーニ、ホテル・ダニエリ、パリのマキシム、プレ・カトラン、リド、ラペルーズ、ルカ・カールトンが撮影協力店に名を連ね、世界一に選ばれた美食の描写がそのまま殺しの描写になる映画なんて、ちょっと贅沢ではないでしょうか。


Sendrens
The Three-Star Recipes of Alain Senderens


Maxim
マキシム・ド・パリの家庭料理 (1980年)


 ジャクリーン・ビセットはこの映画の中では一貫してパンツスタイルです。葬式のシーンでは黒のスーツに山高帽にネクタイまで締めてます。料理シーンもももちろん男性シェフと同じ白衣で、徹底的に男装です。それが寝室シーンでは一転して豊満な女体とシルクの下着姿を披露するので、そのギャップでますます美しくエロく見えます。ところが原作小説を読んでみたら、ナターシャは、ピンクのシャネル・スーツ、銀色のジヴァンシーのアイシャドー、海老茶色のグッチの旅行鞄、赤い鰐皮のマーク・クロスのケース、ピンクのスエードのエルメスのハンドバッグといういでたちでイギリスにやってくることになってたのでビックリしました。もしこの通りのファッションでジャクリーン・ビセットが登場していたら、大人になっても忘れられないくらいその美貌に衝撃を受けることはなかったのでは!? もちろん映画のナターシャは、しっかりカーキ色のキャップを被り、白シャツ、からし色のパンツにブーツ、マタギのような毛皮のベスト、というマニッシュな装いで登場してました。かといってその男装は、この映画の前年の一九七七年に公開された『アニー・ホール』のダイアン・キートンのように、女性たちが憧れるものとはちょっと違う気もします。ジャクリーン・ビセットが美人でセクシーすぎるからでしょうか。


 


 映画にはとにかく料理がいっぱい出てきます。原作にはレシピまで載っています。毎日暑いので、ナターシャのラ・ボンブ・リシュリューに注目してみました。この珍妙な菓子は原作者の創作なのかと思ったら、エスコフィエの『Le Guide Culinaire』にも載っている伝統的なアイスクリーム菓子なのでした。


cake エスコフィエのラ・ボンブ・リシュリュー

ラム酒の利いたグラースを型に塗る。中にコーヒー入りのコンポジションを流し、型を抜いてからコーヒー豆を散らす

(『エスコフィエ フランス料理』 柴田書店刊より)


 


 しかし、原作小説のレシピはまったく違っています。もう絶版になっているので、下に抜粋してみました。


cake ラ・ボンブ・リシュリュー

(1)ムース・ミクスチャー
【材料】
◎砂糖シロップ用
・砂糖 3/2カップ
・水 3/1カップ

・卵黄 8個
・生クリーム 1と1/2カップ
・オレンジピールのみじん切り 大さじ2
・グランマルニエ 大さじ2
・作ったままで未包装のセミ・スイート・チョコレートをおろしたもの 大さじ3
・卵1個(←角川文庫のママ。よくわかりません)

【作り方】
・砂糖シロップを作る
・卵黄を淡黄色になるまで電気ミキサーでかき混ぜる。その間に砂糖シロップをすこしずつゆっくり流しこむ。ミクスチャーに濃度がつくまでかき混ぜる
・クリームを固く泡立てる。ほかの材料を加える。卵黄のミクスチャーに混ぜ合わせる
・卵白を固く泡立てる。卵黄のミクスチャーに混ぜ合わせる。冷凍する。

(2)ラズベリー・シャーベット
【材料】
◎砂糖シロップ
・砂糖 2カップ
・水 4カップ

・生のラズベリー 2クォーツ
・フランボアーズのリキュール 2/3カップ
・レモン 2個

【作り方】
・砂糖シロップを作る
・ラズベリーを裏ごしする。フランボアーズとレモン汁を加える。
・フルーツミクスチャーに同量の砂糖シロップを加える。冷凍する。

(3)チョコレート・アーモンド・アイスクリーム
【材料】
・牛乳 4カップ
・棒ヴァニラ
・作ったままで未包装のセミ・スイート・チョコレートをおろしたもの 1と2/3カップ
・砂糖 1カップ
・卵黄 10個
・生のアーモンド 2/3カップ

【作り方】
・棒ヴァニラをいれて牛乳を沸かす。ヴァニラを取り除く。
・熱湯コップ1杯でチョコレートを溶かし、牛乳と混ぜる。
・卵黄に砂糖を加え、濃度がつくまで掻きまぜる。
・卵黄にチョコレート・ミクスチャーを加える。全体がスプーンにまといつくようになるまで熱する。沸騰させないこと。漉してボウルに入れる。
・アーモンドの皮をむき、つぶす。用意したミクスチャーに加える。冷やす。ときどき掻きまぜる。普通の方法で冷やして固める。

(4)ホイップド・クリーム
【材料】
・生クリーム 2カップ
・粉砂糖 1/4カップ

【作り方】
・氷の上でクリームと砂糖を固く泡だてる。冷蔵庫にいれる。

(5)綿菓子の冠
【材料】
・砂糖 1カップ
・熱湯 1/3カップ
・コーンスターチ 1/4カップ

【作り方】
・コーンスターチと湯を混ぜる。この溶液を砂糖に加える。カラメル色になるまで熱する。すこしねばつくまで冷やす。シロップにフォークを浸け、ボンブの型より大きい、裏返しにして油を塗った金属製ボウルの上でゆるやかに振る。糸をひいて、それが集まって籠のようになるまで浸けては振り、これを繰り返す。砂糖の糸が冷えたら、ボウルから冠状の砂糖の糸をはずす。冷蔵庫にいれる。

◎仕上げ
・ボンブの型にラズベリー・シャーベットを敷きつめる。冷凍する。
・その上にチョコレート・アイスクリームを塗り重ねる。冷凍する。
・真ん中に冷やしたムース・ミクスチャーを詰める。冷凍する。
・底一面にチョコレート・アイスクリームを塗る。冷凍する。
・出す直前に、ホイップドクリームを絞り袋(中ぐらいの星口金をつけたもの)に詰める。
・ボンブを型から抜く。ボンブの裾まわりにホイップド・クリームの輪をつくって飾る。ボンブの上にはホイップド・クリームを盛りあげる。
・形のままの生のラズベリーをクリームに点々と散らす。
・ボンブの上に綿菓子の冠をのせる。直ちに客に出す。波刃のナイフで切り分ける。

◎ワイン
シャトウ・ディケム。安くあげるつもりならシャンパンにても可。

(ナン&アイヴァン・ライアンズ『料理長殿、ご用心』 角川文庫刊より)



 ところが、映画のラ・ボンブ・リシュリューは原作小説とも全然違うんです。白いホイップクリームを塗ったボンブ状のものの表面にラズベリーを敷き詰めて、その上をピンク色のラズベリークリーム→茶色のチョコレートクリーム→白いホイップクリームの順番で塗りたくってました。最後はチョコレート色のボンブ状になっていて、白い砂糖菓子を飾り、頂上に王冠を乗せて、トレイの四隅にパイナップルを置き、王冠とトレイの中の木イチゴの酒に火を点けて出来上がりです。変な菓子!



 映画のラ・ボンブ・リシュリューは正体不明すぎるので、原作のレシピを真似してみることにしました。でもアイスクリーム初心者には三層は大変なので、チョコレートアイスとラズベリーアイスの二層にしてみました。試してみると、アイスクリームってマシンがなくても簡単に手作りできることがわかって感動します。冷凍庫がない十六世紀に既に作られていたんですもんね。たいていの手作りアイスレシピ本は、牛乳も卵黄も全部混ぜた後の手順に「沸騰させないように粘りが出るまで加熱する」としか書いてなくて、よくわからない私はすぐ卵黄を凝固させてしまって何度も泣く泣く捨ててたんですが、どうやら83℃以上にならないようにすると凝固しないみたいです。でももっと滑らかで香り高いアイスクリームが作れそうなので、もっと研究したいと思います。


cake ラ・ボンブ・リシュリューもどき

【材料】
◎チョコレートアイス
・牛乳 200ml
・製菓用チョコレート 70g
・グラニュー糖 40g
・バニラ 1鞘
・卵黄 2個

◎ラズベリーアイス
・冷凍ラズベリーピューレ 必要量
・シロップ ピューレと同量
(濃度50%で水にグラニュー糖を溶かす)

【作り方】
・チョコレートを刻んでおく
・牛乳にバニラビーンズを入れて75℃まで加熱して粗熱をとる
・卵黄にグラニュー糖を加えて、白くもったりするまで泡立て器で混ぜる
・卵黄とグラニュー糖を混ぜたものに、粗熱をとった牛乳を少しずつ混ぜながら加えて鍋に戻す
・焦げないように木べらで鍋の中を混ぜながら泡が消えて少し粘りが出るまで82℃以下で加熱する
・火を止めたら漉し器で漉す
・チョコレートを加えて混ぜる
・鍋を氷水に浸けてかき混ぜ、粗熱をとり7~8℃くらいまで冷やす
・後でラズベリーアイスを入れる空洞を作るために真ん中に小さい器などを入れた状態で、チョコレートアイスを冷凍庫で凍らせる
・チョコレートアイスが固まってきたら空洞を作るための器を取り出してさらに凍らせる
・凍ったままのラズベリーピューレにシロップを混ぜる
・冷凍庫でちょっと凍らせてみぞれ状態にする
・チョコレートアイスの空洞にラズベリーアイスを入れてさらに凍らせる


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チョコレートアイスとラズベリーシャーベットの二層。


Sendrens02
L'atelier de Alain Senderens


 


 


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2010.05.04

人喰いアメーバの恐怖2(1971年)

Blob_brownie05
うちのブラウニーにはチョコレートと胡桃しか入ってません。

 子どものころに一番怖かったのは、幽霊でもゾンビでもサメでも殺人鬼でもなくアメーバだったなあ、とスカパーで放送された『ブロブ 宇宙からの不明物体』を見ながらボンヤリ思い出していたのですが、その恐怖の元凶と思われる映画のDVDが発売されたので見てみました。といっても実は、アメーバの色は赤いとか、最後はどこか広い空間でアメーバに追い詰められる展開だったなあとか、わずかな隙間からニョ~とトコロテンのようにアメーバが迫ってくる姿とか、ボンヤリした記憶しかないので、TVで見たあの映画が本当にこの『人喰いアメーバの恐怖2』なのかどうか確信はないのでした。『マックィーンの絶対の危機 人喰いアメーバの恐怖』かもしれないし……。



 大人になって鑑賞してみると、子どもの頃とは違う意味で怖かったです。監督作品はこれ一本という俳優のラリー・ハグマンが撮ったせいか、いびつでなんとも気持ち悪い映画なのです。音楽も映画の気持ち悪さを盛り上げてくれるのですが、作曲家はモート・ガーソンでした。『モンド・ミュージック』(リブロポート)や田中雄二著『電子音楽 in ジャパン』(アスキー出版局)などでもムーグ(古い人間なのでムーグと言ってしまう)のアルバムが紹介されていた人です。ジャケットのインパクトで言うと「Electronic Hair Pieces」などに見覚えのある人が多いのではないでしょうか。


 



Mortgarson
Electronic Hair Pieces


 マスタードの花が風に揺れる草原をネコちゃんが歩くオープニングでは、ブンチャブンチャと遊園地にでも流れそうな明るい曲がシンセサイザー(これもやっぱりムーグ?)で奏でられ、途中に「キャーッ」という叫び声がうっすら聞こえます。このシンセサイザーの音がキンキラで多幸感たっぷりすぎて、最初からなんだか気持ち悪いです。電波が歯に沁みるってこんな感じ? そんな経験はないけど。この子猫が後にアメーバの餌食になることは言うまでもありません。

 さらに気持ち悪いのが、アメーバ登場現場付近の山にキャンプにやって来たボーイスカウトの少年たちでした。みんなちょっと足りないように(?)見える男の子たちで、何故か、ずっとアメリカン・クラッカーを鳴らしているのです。モート・ガーソンの狂騒的な音楽に、しつこく重ねられるアメリカン・クラッカーのカチカチ音。やめてーっ! 



アメリカンクラッカー(クラッカーボール)


 参考までに下の本の表紙写真のオジサンがモート・ガーソンなんだそうです。



 『ブロブ 宇宙からの不明物体』では、アメーバは落ちてきた隕石のように登場しました。私はまだ改めて見てはいないのですが、一九五八年に撮られた『マックィーンの絶対の危機 人喰いアメーバの恐怖』でもアメーバは隕石のように登場するようです。そして、この『人喰いアメーバの恐怖2』では、アメーバは冷凍保存されていた頑丈な銀色の容器から漏れ出ます。これらの登場方法といい、建造物はそのままで生物だけが食べられて消えるというイメージといい、アメーバの恐怖って放射能の恐怖の隠喩なんでしょうか。


 


 アメーバが人を襲いはじめているころ、主人公のリサ(グウィン・ギルフォード)は、友だちのレスリー(キャロル・リンレイ)と一緒に、恋人のボビー(ロバート・ウォーカー・Jr.)のバースデーパーティの準備をしています。そこへギターを持ったジョン・レノン風の男(ランディ・ストーンヒル)と女(シンディ・ウィリアムズ)がやってきてリサにブラウニーを渡し、「ボビーへの誕生日プレゼントを忘れてきちゃった」と言います。英語のセリフが聞き取れなかったのですが、字幕の「ブラウニー」には傍点が付いていて、プレゼントを忘れたのはブラウニーが原因ね、とリサは笑います。最初はこのシーンの意味がわかりませんでした。そう、ブラウニーといえば、マリファナ入り菓子として映画やドラマに頻繁に登場することを忘れてはいけないのでした。

 そういえば『ノッティングヒルの恋人』のブラウニーもアメリカの菓子として登場しただけと思っていたのですが、みんなでブラウニーを食べながら、いつもは言えない自分の人生の悲惨ぶりを告白し合うなんて、ちょっと意味深な描写? もちろん、だからといってマックスの焼くブラウニーにマリファナが入っていたわけではないと思いますが……。

 アメーバの被害が拡大する一方で、リサたちが危険を訴えても、保安官(リチャード・ウェッブ)をはじめとする大人たちは、またドラッグをやって幻でも見たんだろうと聞く耳を持ちません。エコロジーを意識したセリフがちりばめられ、若者たちはマリファナをスパスパ、ヒッピーなんか嫌いだとぼやくホーボーのオジサンはアメーバに襲われ、ランディ・ストーンヒルは「コカインがきれた~♪ どこへ買いに行けばいいの~♪」みたいな唄を歌い、キャロル・リンレイはなにかオブジェを作って芸術活動にいそしんでいます。単なるパニック映画ではなく、ヒッピーの時代ならではの映画でもあったとは、子どもの頃はまったく理解できてませんでした。

 二十世紀に入ってから、特に一九二〇年代以降のアメリカの料理書にブラウニーは定番菓子としてよく登場します。たくさんの料理書を見た結果、一九二〇年代に最も多いレシピは以下の通りでした。チョコレートは少なめ、砂糖はかなり多めです。

cake 一九二〇年代のブラウニー

【材料】
・チョコレート 60g
・バター 90g
・砂糖 170g
・卵 2個
・薄力粉 52.5g
・くるみ 1カップ

【作り方】
・チョコレートとバターを溶かして混ぜておく
・卵と砂糖を混ぜて、溶かしておいたチョコレートとバターを混ぜる
・ふるいにかけた薄力粉を加えて混ぜる
・型に流し入れ、余熱しておいた180℃のオーブンで20分から30分焼く(焼き時間は料理書によってさまざまでした)
・焼きあがったらしばらく置いて粗熱をとり、熱いうちに切りわける

 私のオーブンでは20分では焼き時間が足りなくて、30分くらい焼きました。チョコレートが少ないので卵の香りの方が強く感じられ、砂糖の甘さが強烈です。これは廃糖蜜で作っていた時代のイメージをひきずっているブラウニーなんじゃないでしょうか。チョコレートは120~130gくらい使って、砂糖は60~70gくらいに抑えた最近のレシピのブラウニーのほうがやっぱり美味しいです。


 ちなみにボビー役のロバート・ウォーカー・Jr.は「刑事コロンボ」の『愛情の計算』で、他人の研究をパクるバカ息子役を演じてます。ホセ・ファーラー演じるシンクタンクの所長がバカ息子のために同僚を殺す犯人で、有名な『禁断の惑星』のロビーくんがゲスト出演している回です。


 


 後味までも気持ち悪い映画でしたが、ムーグはYMOとか矢野顕子とかを通じて私にもなじみのある楽器なので、自分のトラウマ映画の音楽をモート・ガーソンが作っていたと知ることができたのは楽しい体験でした。しかし「東京は夜の7時」とか「いろはにこんぺんとう」とか「ト・キ・メ・キ」とか再発CDももう廃盤なんですね。

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2009.12.04

ルートヴィヒ(1972年)

Kings03
シェーネッガー・ケーゼ・アルム社のキングスチーズスプレッド。

 チーズ専門店で発見し、パッケージが面白くて買ってしまいました。「狂王」なんて言われながらも、ルートヴィヒ2世はバイエルンの人々に愛されてるんですね。せっかくなのでルキノ・ヴィスコンティ監督の4時間版『ルートヴィヒ』を見ました。『女王エリザベス』『エリザベス』に続き王室シリーズです。処女王に続き童貞王! 

 ありえない話ですが、もし日本で映画化するなら、ルートヴィヒ2世は長瀬智也が演じることができるのではないでしょうか。ちょっとヘルムート・バーガーに似てませんか? そしてジョン・モルダー・ブラウンが演じたオットー1世に似ているのは……二宮和也?



 かつて私はこの4時間版をリバイバル上映で見ました。そのとき買ったパンフレットによると、ルートヴィヒが生まれたニンフェンブルク城、父・マクシミリアン2世が建てたホーエンシュヴァンガウ城、ルートヴィヒが建てたヘレンキームゼー城とリンダーホーフ城とノイシュヴァンシュタイン城、薔薇島の別荘、謎の死を遂げたシュタルンベルク湖、オーストリアのバート・イシュルの離宮カイザーヴィラ、レッテルバッヒャルムの森は、すべて本物でロケ撮影しているそうです。やはり本物はすごいです。ロミー・シュナイダー演じるエリーザベトが鏡の間を見て爆笑したように、「マジでこれ建てた!?」と笑ってしまうすごさです。

 初めてこの映画を見たころはエリーザベトがどんな人物かも知らず、今よりさらに幼稚だったので、ロミー・シュナイダーを「目の離れたオバサン」としか思えませんでした。それから『プリンセス・シシー』シリーズを見たり、名香智子先生の『エリザベート』(講談社文庫)を読んだりしつつ、大人になって鑑賞すると、ロミー・シュナイダーはやはり美しいですね。シューマンのピアノ曲「見知らぬ国より」が流れる曲馬場での乗馬姿とか、床に着きそうなくらい長く豊かな髪を垂らしたレースのナイトガウン姿とか、ウエストの細さが強調される黒のドレスでルートヴィヒが建てた3つの城を廻る姿とかを見ていると、ヴィスコンティは“シシー”を撮る喜びに浸ってたんだろなと思ってしまいます。あと、美青年と馬が好きなんだなあってことも伝わってきました。言わずもがなですが。


 


 気になる食べ物は、とにかくシャンパン、シャンパンの嵐です。1864年の戴冠式で映画が始まってから、ノイシュヴァンシュタイン城に引きこもる晩年まで、とにかく何かにつけルートヴィヒはシャンパンを飲んでます。バイエルンの王はどんなシャンパンを飲んでいたのでしょうか。終わりの方でエチケットが映るのですが、貧乏庶民にはどこのメーカーか判別できませんでした。

 何かから逃避するようにシャンパンを飲むルートヴィヒというと、ほとんどの伝記に出てくる、ビスマルクの回想録の中の王子時代の姿が象徴的です。それはビスマルクが1863年にニンフェンブルク城を訪れた際に見た、会話もせず、ひっきりなしにシャンパンを飲み、ひとり空想に耽っているルートヴィヒです。その回想は、ジャン・デ・カール著『狂王ルートヴィヒ』(中公文庫)でも引用されています。

 映画の終盤、政府の委員会がルートヴィヒを監禁しに行く前に豪華な夕食を囲むシーンでも、シャンパンが印象的に映されます。ルートヴィヒが廃位を迫られる直前に、映画の中で初めて王以外の人間がシャンパンを飲むわけです。この宴会は実際に行われたそうで、メンバーはビール30本とシャンパン10本を飲み干し、宴会メニューには「王陛下晩餐風」という名前が付けられていたそうです。



 この映画の食事シーンについてもうひとつ要チェックなのは、俳優のヨーゼフ・カインツ(フォルカー・ボーネット)がリンダーホーフ城を訪れた場面に登場する「魔法の食卓」です。食卓がルートヴィヒの部屋と階下の厨房を上下して、料理が配膳された状態でルートヴィヒに食事が提供されるという奇妙な仕掛けの実物を、この映画で見ることができたときは「本当だ、スゲー」と感動してしまいました。

 関楠生著『狂王伝説 ルートヴィヒ二世』(河出書房新社)によると、ルートヴィヒはこの仕掛けを「テーブルや、ごはんのしたく」と呼んでいたそうです。その呼び名は、指物師に奉公した若者が「テーブルや、ごはんのしたく」と唱えただけでご馳走が並ぶテーブルをもらう、というグリム童話にちなんでいるらしいです。著者が現地に行ったときは、階下の機構までは見せてもらえなかったそうなので、映画の中で厨房の様子まで見られるのは貴重ではないでしょうか。この仕掛けはヘレンキームゼー城にもあり、食卓の天板は金色に塗られた大理石なのだそうです。

 そして田代櫂著『湖のトリスタン ルートヴィヒ二世の生と死』(音楽之友社)によると、魔法の食卓によって誰にも会わずに食事をとることができるようになったルートヴィヒは、1880年ころから3、4人分の料理を用意させ、ルイ14世や15世、ポンパドゥール夫人やマントノン夫人の像との空想の会話を楽しみながら食事をするようになるのだそうです。


 


 一方のノイシュヴァンシュタイン城には自動肉焼き機があったそうです。これはなんと肉を焼く熱気が串を自動で回転させ、食器を温め、セントラルヒーティングにもなるとのこと! この機械はレオナルド・ダ・ヴィンチが発明したという説があるそうなのですが、これは渡辺怜子著『レオナルド・ダ・ヴィンチの食卓』(岩波書店)に掲載されていた、アトランティコ手稿の「肉焼き機」と同じものでしょうか? そして須永朝彦著『ルートヴィヒ2世 白鳥王の夢と真実』によると、食堂の壁画にはワーグナーの「タンホイザー」の題材となったワルトブルクの歌合戦が描かれているそうです。食堂までも凝りまくってますね。



Sunaga
ルートヴィヒ2世―白鳥王の夢と真実 (Shinshokan history book series)


 晩年のルートヴィヒは肥満と虫歯で美貌も衰えてしまいます。何を食べていたのでしょうか。それに関しては先述した関楠生著『狂王伝説 ルートヴィヒ二世』が面白いです。まず衝撃的だったのは、枢密衛生顧問官のゲルスターが1884年に歯科医としてルートヴィヒを診察したときの話です。夜中の午前2時に診察が終わった後、入れ替りで靴下履きの従僕が部屋に入ってきて、ルートヴィヒに柔かいビスケット、クリームケーキ、チョコレートボンボン、リキュールなどの乗った盆を渡したそうです。そりゃ歯が無くなりますよね。

 そしてルートヴィヒの最後の日は、午後4時に少しのパンとオレンジ1個を食べて散歩に出て謎の死を遂げるわけですが、その本の中に二度と帰らない王のために用意されていた夕食のメニューが紹介されています。

国王陛下の御夕食
ベルク宮 1886年6月13日

コンソメ ニザームの真珠
子牛の胸腺入りオムレツ
ローストチキン アスパラガスサラダ添え
アプリコットのコンポート

 これは宮廷料理人テーオドール・ヒーアナイスが作ったメニューだそうです。「ニザームの真珠」は小さくて白くて丸い子牛肉の団子のようなものではないかと推測されているのですが、今となっては真相はわかりません。


Kings05
1864年頃、18歳くらいのルートヴィヒ2世と思われます。


 このルートヴィヒチーズを発売しているシェーネッガー・ケーゼ・アルム社は、公式サイトによると、ノイシュヴァンシュタイン城の近くでチーズを熟成させていることにちなんで、ルートヴィヒ2世の肖像をパッケージに使用しているのだそうです。私はチーズスプレッドを買ってしまいましたが、本当は黒ビールで洗って発酵させたビアケーゼが最も有名らしいです。このパッケージのルートヴィヒ2世の美青年ぶり。まさにワーグナーがミュンヘンの街角のショーウィンドウで見て、その美しさに目を瞠ったと言われる、即位したときの肖像画なのではないでしょうか。


Kings01
近所のドイツパン屋でブンバニッケルとプレッツェルも購入。



黒ビールで洗った風味豊かなチーズ!ルードヴィヒ王のビアケーゼ

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2009.11.07

家族の肖像(1974年)

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サラミナポリとサラーメ・フェリーノ・ペラート。サラミ祭り。

 『ズーランダー』の夜食を真似たくてメロンを買ったので、せっかくだから他にメロン映画がないかと考えたのですが思い出せません。『グルメのためのシネガイド』(ハヤカワNF文庫)を読んでいると、田中英一さんが『家族の肖像』に生ハムでメロンを巻いたものが出てくると書いているので、「そんなシーンあったっけ?」と思って確認すると、ピンク色っぽい食べ物がボンヤリ映るものの料理は特定できませんでした。それとも私の見たVHS版にはなくて、デジタルリマスター無修正完全版DVDでは確認できたりするのでしょうか!?



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グルメのためのシネガイド (ハヤカワ文庫NF)


 メロンは出てこなくても、『家族の肖像』に出てくる教授(バート・ランカスター)の家の台所には目が釘付けになります。ヴィスコンティは言わずと知れたミラノ公国の支配者の子孫で、モドローネ公爵の息子で、大製薬会社カルロエルバの創業者の姪の息子で正真正銘の金持ちセレブ様です。
 美術品と骨董品に凝り、朝食をサービスするボーイのトレイにどんなものが乗っているか陶器、トースト、バター入れとバターナイフ、ママレード、花、銀の食器に至るまでシナリオに詳しく書いたとミケランジェロ・アントニオーニが証言していたり、「若かった頃、私は演劇よりも映画にひかれていた。監督よりも装置家になりたかった」と言っていた人です。そういう人が描く台所と言われたら、興味ありますよね!


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ヴィスコンティ―評伝=ルキノ・ヴィスコンティの生涯と劇的想像力 (1983年)


 教授が空腹の若者たちをまず案内するのは、大小さまざまなハムやソーセージ、にんにく、唐辛子が天井からぶらさがっている貯蔵庫です。棚にはデカいチーズの塊、藁苞入りのキャンティの瓶、何かを漬け込んでいる大きな瓶。そして床には大きな甕がいくつも並んでいます。何が入っているのでしょうか。

 次に一同は台所に移動し、家政婦のエルミニア(エルヴィラ・コルテーゼ)がデカいパンを薄く切り、教授がそれにチーズとサラミを挟んでサンドイッチを作ります。立派な晩餐室があるのに、狭い台所で赤ワインを飲みながらサンドイッチを頬張る登場人物たちは、いつのまにか和やかな雰囲気に。心を閉ざして孤独に暮らす教授も珍しく饒舌になり、謎めいた過去について語り始めます。台所の壁は緑色の菱形模様のタイル貼りでかわいいです。天井に近い棚に等間隔に並べられた銅製の鍋や型などの調理器具も、ピカピカに磨かれて、美術品のように見えます。

 この台所でもう一つ気になるのは右奥の方にいるメイドです。エルミニアは今晩のディナーのメニューは「西洋アザミのムース」と言うのですが、右奥にいるメイドをよく見ると、まさにアーティーチョークの葉?(花弁?)を剥いています。日本のスーパーではあまり見かけないし、調理をする機会もないので、最初は彼女が何をやっているのかわかりませんでした。

 一緒に物を食べているときと芸術の話をするときだけは教授も、ドイツの学生運動家(ヘルムート・バーガー)とも、左翼かぶれの若者(ステーファノ・パトリーツィ)とも、軽薄な伯爵令嬢(クラウディア・マルサーニ)とも、自分勝手な伯爵夫人(シルヴァーナ・マンガーノ)とも言葉が通じているような気がします。しかし和やかな台所で交わされた晩餐の約束は、しっかりすっぽかされてしまいます。後に果たされる晩餐も、最後は喧嘩で終わります。ヴィスコンティ映画には晩餐シーンが多いですが、食事を共にすることで登場人物が心を通わせるような単純なことは描かれないです。彼は以下のようなことを言っていたそうです。

人生は蜂の巣で、各人はそれぞれの小さな穴のなかに暮している。しかし女王蜂のいる中心部でみんなが出会う。そしてその時がドラマの発生する時だ。


Visconti02
ルキーノ・ヴィスコンティ―ある貴族の生涯 (1982年)


 サラミでサンドイッチ。見てるとヨダレが出てきたので真似して買ってきました。太いサラミはちょっと柔かいタイプのサラミナポリです。細い方はしょっぱくて固いサラーメ・フェリーノ・ペラートです。フェリーノ地区の皮なしタイプのサラミという意味みたいです。パンは、シチリアの海塩、セモリナ粉入りのプーリア地方のものです。



生食可能なカルチョフィ。フレッシュ アーティーチョーク入荷!!約500g コンスピネ種 量り...

Zeffirelli
ゼッフィレッリ自伝 (創元ライブラリ)



大きな石窯で焼き上げるイタリアの家庭パン、パネ プリエーゼ。プーリア地方に伝わる粉の甘み...

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2009.10.08

黒いジャガー(1971年)

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オーブンで焼き栗を作ってみました。

 秋といえば栗ですよね。栗映画っていっぱいあるような気がするのですが思い出せません。唯一憶えているのが、この『黒いジャガー』の栗です。ゴードン・パークス監督作品です。


 


 強くてモテモテ黒人私立探偵のシャフト(リチャード・ラウンドトゥリー)が、ブロードウェイのビクトリアシアター前の屋台で、「寒いから栗をくれ(Bag of chestnuts,please.Cold as hell today,huh?)」とオジサンから買うのが焼き栗でした。このオジサンは声がガサガサしてていい感じなのですが、実は栗よりも、屋台の大きな網いっぱいに入っている茶色い食べ物が気になります。よく見ると、これ、プレッツェルだと思われます。プレッツェルというと勝手にヨーロッパの食べ物?というイメージがありましたが、アメリカ人もプレッツェル大好きらしいですね。

 ちなみに私は熱湯にしばらく栗を浸して皮をやわらかくし、鬼皮に切り込みを入れてから、200℃のオーブンで20分間熱して焼き栗を作りました。素朴な甘さが懐かしく美味しかったです。


 
★プレッツェル★(60g/1個)特徴的な形の伝統的なドイツパン、ラウゲン液を塗布して焼き上げ独...


 シャフトは黒人ギャングのバンピー(モーゼス・ガン)に頼まれて、彼の誘拐された娘を探すことになります。バンピーの情報から、シャフトがハーレムの黒軍派(La Mumba's)のアジトに乗り込むと、マルコムXの大きなポスターが貼ってある部屋で、闘士のみなさんはキャンティを飲んでました。キャンティといえば安いワインというイメージもあったようなので、解放運動に勤しんでいる人々の飲物として違和感ないんですかね。どうなのでしょうか。

 そうこうしているうちに結局、シャフトは人質の捜索だけでなく、黒人ギャングとイタリアマフィアの抗争に巻き込まれます。そこでシャフトがイタリアマフィアと取り引きするために訪れるのが「カフェレジオ」です。このカフェは1927年創業の老舗で、『グリニッチ・ビレッジの青春』(1976年)、『ゴッドファーザーPart2』(1974年)にも登場したんだそうです。シャフトがエスプレッソを注文すると、ウェイトレスが「レモンピールは? 好きなんでしょ 取ってくるわ すぐ忘れちゃうの」といってレモンピールを持ってくるのですが、これはなんなんでしょうか。シャフトがモテモテだからサービス? ちなみに公式サイトのメニューにはレモンピールはありませんでした。



 レモンピール100g


 同じ1971年に製作された『フレンチ・コネクション』のニューヨークや、『ダーティー・ハリー』のサンフランシスコのロケ撮影が魅力的だったように、この映画もシャフトが闊歩する街の雰囲気が面白いです。そして何度見てもアイザック・ヘイズの音楽とともに主人公が現れるオープニングシーンはやっぱりかっこいいですよね。ワウギターの音が印象的ですが、アイザック・ヘイズが鍵盤を弾く人だけあってピアノがおいしい曲でもあります。バンドの演奏シーンが見られるDVDの特典映像は必見です。



Kurigohan02
さすがにシャフトは栗ご飯は食べませんね。


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2009.09.16

ウィズ(1978年)

Chocolatecake06
スポンジケーキは1914年のレシピ。

 「今夜はドントストップ」に始まり、「スリラー」「Beat It」「ビリー・ジーン」などのヒット曲を連発したスター、そして最近はちょっと変な人? さすがに50歳で亡くなってしまったときはビックリしましたが、私のマイケル・ジャクソンの印象なんてそんなものでした。しかし「小島慶子のキラキラ」「宇多丸のウィークエンドシャッフル」「やりすぎコージー」における、ノーナ・リーヴスの西寺郷太によるMJ講話を聞いているうちに、改めてマイケルの魅力にはまってしまいました。ビートルズなどもそうですが、スーパースターって本当にドラマチックな出会いあり別れありで、しびれるようなエピソードが多いですよね。発売されたばかりの西寺郷太の著書『新しい「マイケル・ジャクソン」の教科書』(ビジネス社)も買って読んでしまいましたよ! 発売日なのに入手がとても困難でしたよ!



 マイケル・ジャクソンの初の映画出演作『ウィズ』は、TVの深夜放送で偶然見て、変な映画だなあというのと、ダイアナ・ロスとマイケル・ジャクソンが可愛いなあというのが忘れられず、DVDを探しにいったら無くて輸入版を買ったら直後に日本版が発売されてショック!という悲しい思い出とともにある映画です。



 主人公のドロシー(ダイアナ・ロス)はニューヨークのハーレムに暮らす黒人家庭の娘です。幼稚園の先生をしていますが内気で、仕事や男性に対しても積極的になれません。雪が降る感謝祭の日に親戚一同がドロシーの家に集まりますが、雪の中へ逃げ出した飼犬のトトを追いかけているうちにドロシーは不思議な国へ迷い込んでしまいます。そこでウィズの魔法で家へ帰してもらうために、カカシ(マイケル・ジャクソン)、ブリキ男(ニプシー・ラッセル)、ライオン(テッド・ロス)と一緒に旅をするというお話です。『オズの魔法使い』の全キャストを黒人俳優が演じた人気ミュージカルの映画化だそうです。監督はシドニー・ルメットです。

 ダイアナ・ロスは、この映画で33才のくせに24才のドロシーを演じただとか、歌が下手だとか、ボロカス言われることもあります。でも、やっぱり可愛いです! ノーブラにシフォンのブラウスとスカート、極細の足に銀色のスパンコールのハイヒールをはいて歌い踊る姿から目が離せないです。最後にダイアナが「Home」を暗闇の中で熱唱する姿も感動的なのですが、このシーン、『ドリームガールズ』のビヨンセの一番の見せ場、「Listen」を暗闇の中で熱唱するシーンに影響を与えてないでしょうか。



 カカシ役のマイケルはまだ鼻も丸く肌も黒い19才で、この映画をきっかけにクインシー・ジョーンズと出会って、「オフ・ザ・ウォール」「スリラー」「BAD」を生み出すことになるのだそうです。まさに運命の映画なのかと思うと感慨もひとしおです。クインシーはこの映画の音楽を担当するだけでなく出演もしていて、今はもう無いワールド・トレード・センターの前でニコニコして金ピカのピアノを弾いてます。

 しかも、モータウン制作の映画にマイケルが出るのは別に当然なことと思って見ていたら、上述した本によると、この頃のマイケルは、デビューから人気アイドルにまで育ててくれたと同時に搾取されまくったモータウン、ベリー・ゴーディ・ジュニアとの訴訟を経て、ソニーに移籍したばかりなんだそうですよ。マイケルのカカシさんは歌も踊りも出演者の誰よりもうまいんですが、物腰がソフトで優しそうで可愛いです。しかし独創的な歌と踊りで世界の度肝を抜く前夜の、ギラギラを秘めた姿なんですね。


  


 アメリカならではのイベント、感謝祭から映画が始まります。当然、大きな七面鳥のローストが登場し、オーブンでソースをかけ回しながら焼かれ、切り分けられる様子が美味しそうに描かれます。そしてもう1つ印象的なのが、薄茶色のクリームで覆われた大きなケーキです。このケーキを見つめながら、内気なドロシーが自分の引っこみ思案な気持ちを歌い上げるのです。映画の中のケーキは黄色と白色の花が乗っていて、チョコレートアイシングで飾られ、もっと可愛いです。

 感謝祭のデザートといえば、パンプキンパイというイメージがありました。映画のような薄茶色のレイヤーケーキ(生チョコレートケーキ? モカケーキ?)というのはどれくらい一般的なんでしょうか? もしかしてオール黒人キャストというところに合わせているのでしょうか? トルーマン・カポーティの『感謝祭の客』に出てくるデザートは「オレンジのスライスとすりつぶしたココナッツを一緒にしたもの」「レーズン入りのスイートポテト」「冷たいバナナ・プディング」だったりしたので、感謝祭のデザートはけっこうなんでもありだったりするんですかね?

 現代の映画なので古い料理書を見る必要はないのですが、また漁っていたら1910年にカリフォルニアの出版社から発売された、黒人女性たちによる料理書を見つけました。そちらを参考にレイヤーケーキに使うスポンジケーキを焼いてみました。他にも1914年にブルックリンの出版社から刊行された『絶対に失敗しない料理書(Never Fail Cook Book)』、1895年にニューヨークの出版社から刊行された『THE CENTURY COOK BOOK』なども見ましたが、どれもバターを使用せず、砂糖をいっぱい入れて、卵の黄身と白身を別にして生地を作るレシピでした。仕上がりは……、私が下手だからかもしれませんが、カステラっぽいです。

cherry カリフォルニア州パサデナ市のルース・プリンスさんのスポンジケーキ
【材料】
(tsp=4.92ml)
・砂糖 1カップ
・冷水 3tsp
・ベーキングパウダー 2tsp
・卵 4個
・小麦粉 1カップ
・レモン汁 1tsp
・塩 1/4tsp

【作り方】
・卵を黄身と白身とに分ける
・それぞれクリーム状になるまで卵を泡立てる
・砂糖を黄身に加える
・小麦粉、水、塩、ベーキングパウダー、レモン汁を加える
・白身を十分に泡立てて生地に加える
・中火のオーブンで焼く

 『新しい「マイケル・ジャクソン」の教科書』を読んだ後に、モータウン25周年記念イベントでのマイケルの「ビリー・ジーン」の映像を見ると最高に燃えます。そしてマイケルが出てくるまでは黒人アーティストが音楽雑誌の表紙を飾れなかったとかMTVでビデオが流されなかったとか、何にも知らずにマイケルを見てたんだなあと改めてわかります。『ウィズ』のマイケルを見ていると、映画の中の彼は知るよしもない、それやこれやの行く末を思ってジーンとするのですが……、やっぱり変な映画です。


Chocolatecake05
スポンジにココアパウダーを入れてアレンジしました。

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