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2009.12.09

レボリューショナリー・ロード(2008年)

Scrambled_egg01
近頃はスクランブルエッグを見ただけで貧血が……。

 1997年、『タイタニック』があまりに話題になっていたので、何がそんなに人気なんだよと捻じ曲がった根性で映画館へ見に行って以来、ディカプリオのファンです。そのタイタニック・カップル、ケイト・ウィンスレットとのコンビ復活も話題になってた映画をやっと見ました。監督はサム・メンデスです。


 


 映画の舞台は1955年ごろのコネチカット州です。夫のフランク(レオナルド・ディカプリオ)は毎朝ニューヨークまで通勤して事務機会社の販売部で働くサラリーマン。妻のエイプリル(ケイト・ウィンスレット)は二人の子どもを育てながら、地元劇団での女優活動を生きがいにしていた主婦。劇団の発表会が失敗に終わったことをきっかけに、エイプリルはパリに移住することをフランクに提案します。日々のサラリーマン生活にウンザリしていたフランクも賛成し、一家は引越しの準備で盛り上がるのですが、フランクは出世と昇給が決まり、エイプリルは三人目の妊娠が発覚し……、というお話です。

 郊外の幸せそうな家庭生活の欺瞞がジワジワと暴かれる映画というと、『ステップフォード・ワイフ』とか『泳ぐひと』とか『天が許し給うすべて』とか『三人の妻への手紙』などなどいろいろありますよね。『エデンより彼方に』なんてのも1957年の同じコネチカット州を舞台にしてました。


 


 


 フランクとエイプリルの物語が他と違う点は、彼ら自身が既に欺瞞に気付きながら生きている点でしょうか。フランクは父へのコンプレックスや男らしさの呪縛に捕らわれながらサラリーマン生活に埋没し、エイプリルは仕事や演劇に挑戦したいのに子どもや家事に縛られ、二人とも欲求不満を自覚しながら生きています。そして、いつかそこから出て行くと思っているところに彼らの自負があったわけです。現代なら無謀な外国移住、転職なども聞かない話ではないですが、1950年代の人々の考え方や社会構造ではそんな脱出は困難で、この映画も悲惨な結末を迎えています。

 映画には専業主婦たちが作った家庭的な料理、隣人をもてなす手作り料理がいろいろ出てきます。バースデイケーキ、凝ったオードブル、黄色いカボチャの皿と野菜ディップ、サンドイッチ。しかし幸せそうな雰囲気だけは醸し出しているものの、料理は画面の端に追いやられていてハッキリ映らず、美味しさや温度などはほとんど感じられません。



ル・クルーゼ ココット・ポチロン


 ところが終盤、今まで存在感のなかった食べ物の撮り方がちょっと変わります。それは冷戦を続けていた二人が決定的な喧嘩をする日の朝、エイプリルが包丁で皮をむくジャガイモから始まります。最初は穏やかなふりをしていた二人が、まさに刃物を向け合うような罵り合いをじょじょに始め、フランクがエイプリルに致命傷のセリフを吐いてしまいます。そして緊張が最高潮に達する翌日の朝、スクランブルエッグを作るために卵をかきまぜるエイプリルの横顔から、カメラがゆっくり動いて、手元のボウルが映されます。これが超怖いです! 卵を溶いているだけなのにボウルの中身すら怖く思えます! この溶き卵で映画の結末がほとんど予測できたと言えるでしょう。

 原作はリチャード・イェーツの処女作で1961年に出版されました。朝食のシーンは原作にもあって、同じようにスクランブルエッグ、コーヒー、ベーコン、オレンジジュース、バターを塗ったトーストが食卓に並ぶのですが、あの怖さは映画ならではだったと思われます。私は最初はソファに坐って鑑賞していたのですが、最後は貧血状態になって床に這いつくばって見てました。


 


 こんな息苦しい時代に戻りたくないはないのですが、この不況の風がピューピュー身に沁みる2009年に彼らの中流生活を見ていると、なんだか眩しくもあります。給料はどんどん上がり、通勤列車は人が多すぎず、同僚たちものんびりしていて、売り上げは右肩上がりで、広い庭付きの一戸建を買い、食卓には手がこんだ家庭料理が並び、オレンジジュースは手で絞られ、裏には木漏れ日の美しい森があります。この映画を2008年より前に見てもこんなに眩しくはなかったでしょう。今、景気のどん底にいるような気分ですが、50年後に2009年を振り返ったときに、不況で悲惨ね~と思いつつも、眩しく感じるものが何かあったりするんでしょうね。それが何かは今はわかりませんが。



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