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2012年2月

2012.02.16

哀しき獣(2010年)

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ふかしたジャガイモが美味しそうだった。

 二〇一〇年のバレンタインデーは、ナ・ホンジン監督の『チェイサー』の中であまりにも印象的だった韓国のアルファベットチョコレートが気になって、ネット通販で購入しました。見た目も味も日本のアルファベットチョコレートとそっくりで美味しかったです。そのナ・ホンジン監督の新作『哀しき獣』が公開されるということで、先月、新宿シネマートで見てきました。


 


 


 南に北朝鮮、東にロシアと国境を接し、人口の約六〇%が漢族(中国の大多数を占める民族)、約四〇%が朝鮮族(中国籍の朝鮮民族)の中国領「延辺朝鮮族自治州」から映画は始まります。朝鮮族のグナム(ハ・ジョンウ)は、妻の出稼ぎ資金を作るために大金を借りた上に、韓国へ送り出した妻からの連絡が途絶えたことでヤケになり、ギャンブルにはまって借金地獄に陥ってしまいます。借金返済のためにグナムがミョン社長(キム・ユンソク)から請け負ったのは、スンヒョン教授(カク・ピョンギュ)殺害という仕事でした。黄海を渡って韓国に密入国したグナムは、妻を探しつつ、綿密に殺害の計画を練りますが、決行のその日、二人の男が先を越して教授を殺害してしまいます。ところがグナムが警察とキム・テウォン(チョ・ソンハ)に追われることになってしまい…という話です。


 


 町にこびりついている匂いまで映ってるんじゃないかと思うような映画は、細かい説明など何もなくても、そこに生きる人物の陰影が深く複雑に見えるような気がします。ナ・ホンジン監督の映画は前作の『チェイサー』も他では見たことのないソウル、麻浦区望遠洞が魅力的でしたが、この作品でも主人公のグナムが巡る延辺、安山、加里峰洞、木浦、蔚山、仁川、釜山、報恩それぞれの町に目が釘付けになりました。現代とは思えない薄汚れた港町、セキュリティシステムもデザインも古臭いビルが建ち並ぶビジネス街、日本資本のコンビニが夜中も営業している繁華街を、何も喋らないグナムがひたすら駆けずり回るだけで、彼の人物像、ひいては韓国の全景まで見えるような気持ちになります。そして人と乗り物入り混じってのすごい追走劇も、無口で無表情なグナムが感情を爆発させるように暴走、クラッシュしまくるので、「ハデな見どころ」といった空疎さとは違うものを感じました。


 


 さて、前作『チェイサー』も食べ物が面白かったのですが、この『哀しき獣』も気になる食べ物がいっぱい出てきます。そろそろ本当に韓国に行きたいです。まずは「高級日本料理店」ということで何度も出てきた刺身の店が気になりました。なんだかまったく高級に見えなくて、「グナムの奥さんはこんなところで働いてたの?」とちょっと不安になるくらいなのですが、朝倉敏夫著・石毛直道監修『世界の食文化① 韓国』(農文協)を見ると、二〇〇四年の二月下旬~三月上旬に行われた食生活のアンケートで、あるインテリア企画会社社長(四十九歳・男性)が受けた接待と宴のメインメニューがすべて「刺身」となっているので、確かに刺身は韓国でもご馳走として認識されているみたいです。グナムが訪ねたあの店の怪しげな心細くなる雰囲気は、密入国して知らない土地をさ迷う男が見ている光景だったからに違いありません。


 


 コンビニで辛ラーメンを食べながら、隣で男性がソーセージを食べているところをうらやましそうに眺めていたかと思うと、カット後、グナムもちゃっかりソーセージを手にしているとか、屋台のオデンを食べながら人を待っていたかと思うと、待ち人が現れた瞬間に追いかけるついでにオデン串をもう一本持ってきちゃうとか、食べ物に見せるグナムの素直すぎる反応は、そこだけドタバタ喜劇のようで笑ってしまいました。殺人・捜索・逃亡の連続で張り詰めた空気が唯一和らぐところです。そして最後の最後、追われ裏切られボロボロになったグナムが腹一杯食べるのが、ふかしたジャガイモでした。単にふかしただけのジャガイモがこんなに印象に残る映画が他にあったでしょうか。当然、私もジャガイモをふかしてしまいました。


 


 最近、佐野真一著『あんぽん』があまりに面白くていっき読みして、孫正義と佐野真一のエネルギーにやられてしまったのですが、『哀しき獣』に描かれた韓国、密航、貧乏、民族差別といった題材からまた思い出してしまいました。三代に渡って孫社長の家系を粘っこく取材した約四〇〇ページの評伝と、数日間の逃走劇を題材にした百四十分の娯楽映画ではまったく違うのはもちろんなのですが、それでも、この映画にも『あんぽん』のような越境者のエネルギーを感じたのは確かです。また、ナ・ホンジン監督作品はものすごく男臭いのに、作品の隅っこに出てくる女性のことを登場人物がいつも気にしてチラチラ見てるのがとても好きなのですが、それについてはまた第三作目を楽しみにしたいと思います。


 


  

 

 

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2012.02.09

宇宙人ポール(2011年)

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イギリスの塩辛いジャムってマーマイトのこと? 

 グレッグ・モットーラ監督の『宇宙人ポール』を見に行った映画館のロビーに記念撮影用の顔抜きパネルがあったのですが、そこに自分の顔をはめる勇気はありませんでした。せめてパネルだけでも撮ろうと思ったら、その前でボンクラ男子三人組がえんえんと喋ってどいてくれません。気付いてくれないかなあと待つこと数分、映画館の人が気を利かせて男の子たちに声をかけてくれました。グレッグ・モットーラ作品に出てきそうな気の利かない男の子三人組がいる映画館なんて最高です。『スーパー8』はカップルばっかりで子どもが見たらいいのにねえと思ったものですが、『宇宙人ポール』は女の子二人組とかオジサン二人組とか、いかにも「笑いに来たよ!」という感じの同性グループの観客が多くて、微笑ましい雰囲気でした。


 


 全米最大のコミックイベント「コミコン」に参加するためイギリスからやってきた、SFおたくのグレアム(サイモン・ペッグ)とクライブ(ニック・フロスト)がカリフォルニア州サンディエゴに到着するところから映画は始まります。二人はついでにアメリカ西部のUFOスポットを巡る計画を立てますが、地元のチンピラたちに絡まれてしまい、逃げる途中で目撃した車の爆発事故の現場で本物の宇宙人ポール(声:セス・ローゲン)に遭遇する、というストーリーです。



 グレッグ・モットーラ作品は男の子がみんな優しくて、女の子もみんな「優しい男の子が一番いい」ってわかってるところがいいです。実際の男の子は、『息もできない』や『ヒーローショー』のように、ぶん殴ったり犯したりブッ殺したりはあんまりしてないはずで、優しくてイイ奴なのに臆病だったり小狡かったり幼稚だったりすることの方が身近な問題なのでないでしょうか。グレッグ・モットーラは、そんな若者の未熟ゆえのつまずきをネタに笑わせつつ、彼ら・彼女らの蹉跌と成長を愛情を持って丁寧に描くので、どの作品を見ても切なくて泣いてしまいます。特に『アドベンチャーランドへようこそ』は予想外に号泣してしまった大好きな映画でした。『スーパーバッド 童貞ウォーズ』も、日本では「男の子の映画」として紹介されていますが、女性も見たら楽しめるのになあと思います。アメリカであんなに大ヒットしたのは女の子も気に入ったからではないでしょうか? (二千万ドルの製作費で一億二千万ドルを超えるヒット) 


 


 セス・ローゲンが声優を務める宇宙人ポールは大変なお喋りで、おたくネタからセックス、宗教ネタまで軽口を叩きまくります。食べ物についてもとどまるところを知らず、グレアムとクライブのキャンピングカーの冷蔵庫を漁ってベーグルや紅茶について騒いだ後に、「イギリスの塩辛いジャムだ! すげー!」と言うシーンがありました。「イギリスの塩辛いジャム? 何それ?」と気になり、家に帰って調べたところ、それはどうやら「マーマイト」というもので、かなり好みの分かれる味らしく、イギリス人をからかう定番ネタになっているみたいです。通販サイトで買ってみようかなと思っていたら、ふと立ち寄った成城石井の棚にいっぱい並んでました。パンに塗ってひと齧りした結果は、ま、ま、ま、まずい…! 



 見た目はチョコレートペーストみたいなのですが、塩辛く、旨味成分が何も感じられません。靴墨に塩を混ぜたらこんな味がするんじゃないかと思うような味気なさです。ビール酵母から作られた発酵食品だそうなので、私には感知できなかった「旨味」がきっとどこかに隠されているのでしょうし、健康にはいいのでしょうが、二口目はどうしたって無理。マーマイトがどんな感じでイギリスで食べられているのか、他の映画で見たり小説で読んだことはないかなあと思ったのですが、いまのところ私の記憶の中から掘り起こすことはできませんでした。また探してみたいと思います。当然のことですが、まだまだ世界には私の知らない食べ物がいっぱいあるんだなあと、久々に実感させられました。


 


 


 


 


 

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