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2012.04.30

港のマリー(1949年)


Tarte01
クールティーヌさんのタルト・オ・ポム・バリノワーズ。

 『プロヴァンス物語 マルセルの夏』日記でタルト・オ・ポムが出てくる映画を思い出していたときに、おととし自分が書いた、マルセル・カルネ監督『港のマリー』日記を読んだら、あまりに無内容で酷かった!(今も変わらないけど)。それで、もう一度『港のマリー』を見たら、やっぱり何を言いたい映画なのか、さっぱりわからない……。同じ「マリー」としては、理解できないまま彼女を捨て置けなかったので、ジョルジュ・シムノンの原作を読んでみることにしました。



 映画は、オディール(ブランシュ・ブリューワ)とシャトラール(ジャン・ギャバン)が、故障した自動車を田舎道で修理するシーンから始まります。オディールは父親の葬式に参列するため、情夫のシャトラールはそのつきそいで、シェルブールからポル・タン・ベッサンへ向う途中でした。父親を失ったオディールの弟妹は伯父に引き取られることになるのですが、十八歳の妹マリー(ニコール・クールセル)だけはポル・タン・ベッサンに残ってカフェで働くといって譲りません。気の強いマリーが気に入ったシャトラールは、港で古い船を買い取り、マリーが働くカフェに頻繁に顔を出すようになります。そんな二人の関係に、マリーの恋人のマルセル(クロード・ロマン)が嫉妬してヤケを起こし、シャトラールが運転する車に飛び込んで自殺をはかるのですが……という物語です。


Marys
シムノン選集〈第9〉港のマリー (1970年)


 ジャン・ギャバンがシャトラールを演じたときは四十五歳。彼と恋に落ちるマリー役のニコール・クールセルは十九歳。ところが映画のジャン・ギャバンはなんだか老けていて、五〇~六〇歳くらいに見えます。そのせいで年齢差を感じさせすぎる二人の関係がどことなく不潔に見えて、スールノワーズ(心の底のわからない子)のマリーが、度を超したスールノワーズに見えてしまったみたい。
 原作を読んでみるとシャトラールは三十五歳でまだ若く、貧しい港町のポル・タン・ベッサンでも小都会のシェルブールでも、シャトラールとマリーだけが他の人々と違う似たもの同士で、惹かれあうことがよくわかります。


 


 『港のマリー』を見ていると、漁師たちが酔うために飲むカルバドス、シェルブールのレストランの女従業員がムシャムシャと手づかみで食べるムール貝、そして葬式後の喪服の食卓に出てくるりんごパイを食べてみたくなります。港町のポル・タン・ベッサンの葬式は、黒のキャスケットに黒いタートルネックという漁師ならではの喪服がちょっとオシャレで、スーラも絵に描いた簡素な石造りの町を葬列の進む様子が厳かで美しいです。



 ところが葬式が終わって家に戻り、格子柄のテーブルクロスがかけられた食卓にマリーが大きなりんごパイを乗せると同時に、叔母はりんごパイを何等分に切るかに夢中になり、叔父はタバコの紙を巻き、姉は子どもと戯れ、人々は今後の計画を乱暴に話し始めてガヤガヤと賑やかしくなります。この聖と俗のコントラストが、ポル・タン・ベッサンの空気を強烈に伝えるのですが、マリーはガヤガヤしている食卓でひとり静かに給仕をし、シャトラールはガラス窓越しに葬列を傍観し、二人だけが周囲から浮いているのでした。


 


 石造りの路地、喪服、整然とした葬列の無機質な世界から、ホカホカ湯気が立つような日常に戻ったときに、画面いっぱいに映る大きなりんごパイは、パイ皮の端がピザのようにぷくっと膨らみ、白黒映画では焦げ目に見えるくらいしっかりと焼き色が付いていました。その上に並べられたりんごのスライスは飴がかけられたようにつやつやと光っていて、こちらも香ばしそうな焼き色が付いています。当たり前に思い浮かべるりんごパイに比べるといびつなのですが、見とれるくらい美味しそう。この美味しそうな大きいりんごパイを見ていると、ポル・タン・ベッサンの生活を田舎臭く息苦しく思いつつも、やっぱり親しみ深く離れがたく、ずっとそこでヌクヌクとしていたい地元の人々の気持ちがわかるような気がします。


 


 しかしそんな魅惑のりんごパイのレシピはわからないので、同じジョルジュ・シムノンが書いたメグレ警視シリーズに登場する料理のレシピを紹介した、ロベール・J・クールティーヌ著『メグレ警視は何を食べるか? フランスの家庭の味100の作り方』のりんごのタルト・バリノワーズ(Tarte aux pommes bas-rhinoise)を作ってみることにしました。この本はもう絶版になっているので、ちょっと現代風でない(?)手順をアレンジしたレシピを以下に紹介してみます。


apple ロベール・J・クールティーヌのレシピを参考にした、りんごタルト・バリノワーズ 

【材料】
(タルト生地)
・バター 120g
・小麦粉 120g
・コーンスターチ 40g
・砂糖 50g
・卵 1個

(フィリング)
・紅玉 2個
・砂糖 50g
・牛乳 1カップ
・小麦粉 大さじ1
・コーンスターチ 大さじ1
・ナツメグ 少々
・卵 1個
・卵黄 1個

【作り方】
・タルト生地用の小麦粉とコーンスターチを合わせてふるいにかけておく
・室温でやわらかくしたバターに小麦粉、コーンスターチ、砂糖、溶き卵を加え、こねすぎないように混ぜて、しばらく涼しいところでねかせる
・生地をのばして20cmくらいのタルト型にしき、フォークで数箇所つついて小さな穴を開けておく
・りんごの皮をむいて半月形に薄くスライスし、バターを敷いたフライパンで火を通す
・タルト生地にクッキングシートを乗せて重石を乗せ、200度のオーブンで15分焼き、取り出してクッキングシートと重石を取り除いて再び5分焼く
・フィリング用の卵と砂糖を混ぜて白くもったりするまで泡立てる
・卵と砂糖の混合物に、フィリング用の小麦粉とコーンスターチをふるいにかけたものと牛乳を加えて混ぜる
・混合物を漉し器で漉して火にかけ、もったりするまで加熱して、カスタードクリームを作る
・焼いたタルト生地にりんごを並べ、その上にカスタードクリームを乗せ、ナツメグをふりかける
・180℃のオーブンで15分焼き、冷めたら食べる

book 参考:ロベール・J・クールティーヌ著『メグレ警視は何を食べるか?』(文化出版局)


Maigret
メグレ警視は何を食べるか?―フランスの家庭の味100の作り方 (1979年)


 ロベール・J・クールティーヌは美食ジャーナリストで、この『メグレ警視は何を食べるか?』のオリジナル本は一九七四年にフランスで発売され、ジョルジュ・シムノン自身が序文を書いています。クールティーヌは料理に詳しいだけでなく、本当にシムノン愛読者でもあるようで、この本のレシピには「港のマリーのスフレ」という創作料理まで掲載されていました。ここで参考にしたりんごタルトは、『メグレと田舎教師』という作品に出てくる田舎医者の妹が作ったタルトをイメージしたもので、『港のマリー』とは関係ないのですが、シムノンと同時代に生きた人が教えてくれるフランスの田舎の家庭のりんごタルトを味わってみたくて作ってみました。


 


 しかし、もったりしたカスタードクリームをたっぷり乗っけるタルト・オ・ポムより、卵液がカリッと焼ける 『プロヴァンス物語 マルセルの夏』日記のタルト・オ・ポムの方が好みかも。次こそは、もっと全体的に焼き色が濃いりんごパイを焼いてみたいです。


 


 

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