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2012年6月

2012.06.12

子猫をお願い(2001年)

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久々に見たらマンドゥ映画だった!

 歴史に残る名作かどうかや、どこの国で作られたかなんてことは、「私の映画よ!」って思えるかどうかにあんまり関係ないものです。韓国にも私の映画だなあって思える作品がありそう! と思ったきっかけが、ポン・ジュノ監督作品とこの『子猫をお願い』だったので、五月末の韓国旅行から帰ってきて、もう一度見てみました。泊まったホテルが『子猫をお願い』のロケ地のファッションビル「Doota」の近くだったのが嬉しくて、どんなシーンだったのか確認したかったのもあります。何度目かの鑑賞は、韓国の空気にわずかながら触れてきたせいで以前よりもソウルと仁川の差が鮮明に感じられ、五人の女の子の物語にかつてないほどに胸がいっぱいになってしまいました。この映画を撮った女性の監督、チョン・ジェウンさんは今どうしてるのかな? 偏愛映画の一本です。



 主人公は仁川の商業高校を卒業した仲良し五人組の女子。彼女たちは卒業後、ばらばらの道を歩んでいます。テヒ(ペ・ドゥナ)は強引な父親に実家のサウナを手伝わされながらボランティア活動を続け、ヘジュ(イ・ヨウォン)はコネで入った会社で大卒の女性部長のアシスタントとして働き、祖父母と貧民街で暮らすジヨン(オク・チヨン)は仕事が見つからず、中国系移民のピュ(イ・ウンシル)とオンジョ(イ・ウンジュ)の双子は家計を支える母が中国で働いているため家族ばらばらで暮しています。そんな五人がヘジュの誕生会で久々に集まり、ジヨンがヘジュに大事な子猫をプレゼントするのですが、ヘジュは翌朝にそっけなく子猫を返してしまいます。ジヨンにもヘジョにもそれぞれの複雑な事情がありながら、互いの生活が違いすぎて悩みを打ち明けられず、五人はどんどんすれ違っていきます。そんなさ中、ジヨンの家に事件が起き…という物語です。


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dootaの本物が見られて感激した。


 久々に見ると、記憶以上に「食べ物」映画でびっくりでした。真夜中に電子レンジで薬を温めているお母さんの不気味さとか、キムチを切る包丁を持ったまま客の応対をする女の子の危なっかしさとか、生活の中の不穏な空気の描き方が面白いのは女性の監督ならでは?


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仁寺洞にあった漢方のお店。


 テヒの一家は一見なんの問題もなさそうに見えるのですが、娘をいいように使うだけで誰もテヒの将来を真面目に考えていません。楽しそうな一家団欒の食卓シーンが何度も出てくるものの、テヒはとうとう一度もその団欒に加わることはありませんでした。家族でTONY ROMA'Sに食事に行くシーンも、ガハハと勝手に注文してしまうお父さんの強引さが明らかになるだけです。一方、お母さんは最初から最後まで存在感が薄いのですが、唯一、真夜中に白磁の器に入れた漢方薬を電子レンジで温めているシーンにはドキッとさせられます。真っ暗な部屋の中で蠢くお母さんの姿を、テヒは自分の未来の姿のように見たのではないでしょうか。そういえば『母なる証明』のお母さんも漢方薬店に勤めていましたが、あちらはうってかわって存在感が濃厚すぎるお母さんでした。



 ヘジュはジヨンにいつでも昼食をおごってあげると言ったにも関わらず待ちぼうけをくわせ、さんざん遅れておきながら駆けつけたときにフランスパンを持っているのが印象的でした。高校時代は美人で人気者だったのに、社会に出て小さな挫折を繰り返しているうちに、自分のことしか見えなくなってしまっているヘジュ。フランスパンには彼女の身勝手さや見栄やプライドや強がりやいろんなものが詰まってそうに見えます。ソウルは日本以上のカフェブームだったので街中にパン屋さんがいっぱいありました。特によく見かけたのは「パリバゲット」というチェーン店。そして三清洞の近くに美味しそうなパン屋があったので、入ってみようかと思ったら、エリック・カイザーの店でした。ソウルでは「メゾン・カイザー」ではなく「エリック・カイザー」で出店するんですね。


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三清洞の近くにあったエリック・カイザーの店。


 ジヨンを取り巻く食べ物はいつもおばあちゃんと一緒。おばあちゃんがチョンガ(韓国ミニ大根)のキムチを噛み切れなくて、いつまでもモガモガやっているのを、切ってあげようとジヨンが包丁を取り出すシーンなんて、おばあちゃんに対するジヨンのたっぷりの愛情、優しさ、可笑しさ、もどかしさ、イライラ、ほんのちょっとの殺意みたいなものが絡まりあっていて単純ではありません。そして、内向的なジヨンが後半で見せる抵抗の表現も、しっかり食べ物に関係しているのが面白いです。やっぱり韓国映画の食べ物は面白いなあと唸ってしまいました。なぜこんなに面白いのでしょうか!?



 そのようにいろんな食べ物が出てくるなか、貧乏なジヨンのおばあちゃんがテヒに「孫の友だちが家に遊びに来てくれたのは初めて」と言って、精一杯のごちそうのマンドゥを次から次へと食べさせるシーンが忘れられません。おばあちゃんのマンドゥも含めて、テヒはこの映画の中で三回マンドゥを食べるのですが、どのマンドゥもそれぞれに違っていて意味があって、この作品に欠かせません。マンドゥ映画と言いたいくらいです。



 マンドゥは旅の予定になかったのですが、三清洞の近くの黄生家(旧・北村)カルグッスにカルグッスを食べに行ったら、店頭でマンドゥ作りのデモンストレーションをやるくらいマンドゥをアピールしていたので、もちろん食べてきました。直径八センチくらいの大ぶりで、七個で八〇〇〇ウォン(だいたい580円くらい)。「大きいのにペロリと食べちゃうね」と友人と頷きあうくらいフワフワだったのは、春雨と豆腐が入っているせいみたいです。でもフワフワ軽いだけでなく、肉やゴマやにんにくの味もしっかりして食べ応えがあり、「日本人向けに作られているんじゃないと思うのに、なんでこんなに美味しいの~!」と感激するくらい美味しかったです。


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三清洞近くの黄生家カルグッスでマンドゥを食べた。


 カロリーを低くおさえられそうな点も魅力的なので、さっそく真似してみることに。レシピは『初恋のきた道』日記の餃子先生に教えてもらったものと、ソウルナビの韓国料理教室「マンドゥ」と、黄生家カルグッスの味の記憶をミックス。豚ひき肉、春雨(国産かんしょ)、ズッキーニ、キムチ、麻の布で水分を切った豆腐、ゆでたもやし、ネギ、にんにく、しょうがをまぜて具にして蒸しました。


 


 ソウルで一番無念だったのは、トッポッキを食べそびれたこと! 仕事のために韓国のTVドラマ「宮 Love in Palace」や「コーヒープリンス1号店」を見たときも、女子高生が学校帰りに寄り道してトッポッキを食べている姿があまりに楽しそうで、せっかくだから現地で食べたいなあと、日本ではトッポッキを食べずにがまんしてきました。それなのに時間切れ&腹いっぱいで食べられなくて無念。朝から晩まで貪欲にいろんなものを食べてたのに…。次の韓国旅行ではトッポッキとキムパプと炸醤麺(空港で食べたら麺がうどんだった)と韓国の辛し明太子を食べたいです。『子猫をお願い』でも、バラバラの五人が、つかの間、昔に戻ってワイワイ仲良く食べるのがトッポッキでした。そして思い出話で、テヒとヘジョが高校時代に仲良くなったきっかけもトッポッキであることが明かされるのです。イマドキの韓国の女子高生も友人たちとトッポッキを囲んだりするのでしょうか?


 


 


 

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2012.06.01

ポエトリー アグネスの詩(2010年)

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ソウル駅前で韓国の杏を生で食べてきました。

 やりたいやりたいと日頃から唱えていると本当に実現するみたい。韓国に行きたい行きたい行きたい行きたいと唱えていたら、女子大時代からの友人が先週末に韓国へ連れてってくれました。直前まで仕事をして徹夜でボロボロだったのに、現地に着いたら、夜八時でもまだ明るいソウルにテンションMAX! そして旅の目的は決してそれだけではないのだけど、やはり韓国の食べ物は食べても食べても魅力的で興味は尽きませんでした。


 絶対に食べると決めていたもののひとつ、生の杏も食べました。食べたかった理由は、三月に銀座テアトルシネマで見たイ・チャンドン監督『ポエトリー アグネスの詩』の主人公が杏を生で食べていたからです。日本では生で食べることがないのに隣の国では違うんだなあというのがまず新鮮で、かつ、『マルメロの陽光』のマルメロのように『ポエトリー』の杏も、杏を見ているつもりが杏に見られている気分になる杏、なんだか心を解放してくれる杏だったので、私も韓国の杏と対面してみたいなあと思ったのでした。


 


 主人公のミジャ(ユン・ジョンヒ)は美人でおしゃれが好きな六十六歳。介護の仕事をしつつ、釜山で働く娘の代わりに孫のジョンウクを育てています。ある日、体の不調を感じたミジャは病院に行き、アルツハイマーが進行していると告げられますが、医者の診断すら忘れてしまい、詩作教室に通い始めて詩に夢中になっていました。そんなとき、ジョンウクの友人のギボムの父親(アン・ネサン)に呼び出され、ジョンウクら中学生の男子グループが集団暴行事件を起こし、被害者の少女が自殺したことを知ります。男子グループの親たちは少女の親に慰謝料を払って事件を隠蔽することを計画し、ミジャも言われるまま慰謝料を用意しようとするのですが、少女の葬式や家を密かに訪ねるうちに……という物語です。



 今年の二月、三月に見た映画は、『ヤング≒アダルト』も『ヘルプ 心がつなぐストーリー』も『ヒューゴの不思議な発明』も『ポエトリー アグネスの詩』も、大雑把に言ってしまえば「女子が世界の語り手になる」という映画だったけど、そういうのが流行している? そして日本でも、『しあわせの雨傘』のカトリーヌ・ドヌーヴとか、この映画のユン・ジョンヒとか、『母なる証明』のキム・ヘジャみたいに、オーバー六〇歳女子が活躍する映画がもっと作られたらいいのに。この『ポエトリー』のミジャ役なんて吉永小百合とかでリメイクしたら似合うんではないでしょうか。


 


 印象的な杏は、被害者の少女が生まれ育った貧しい農家をミジャが訪ねるシーンに登場します。ミジャが少女の家を訪れたのは金で和解してくれるよう母親と交渉する役目を押し付けられたからなのですが、アルツハイマーのせいか用事をすっかり忘れたミジャは、少女の母と世間話をし、熟して地面に落ちた杏を食べ、その甘さに感激して帰ってきてしまいます。私がソウル駅のロッテマートで買った杏はあまり甘くなく香りも控えめ。『ポエトリー』の季節は夏、日本で生食用に栽培されているハーコットという種類の出荷時期も夏なので、五月末は杏を食べるにはちょっと時期が早かったかもしれません。


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杏は韓国語で살구。七個で八〇〇〇ウォン。


 久々に旅をして実感したのは、外国を見物に行ったつもりが、自分こそが珍しいエイリアンなのだなあということ。言葉も喋れないエイリアンは、必死にアピールして、まずは自分を見てもらうことから始めないと何もできませんでした。韓国まで杏を見に行って、私こそが見られている杏みたいだなあって思える時間を過してきました。


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杏を買ったとき、ソウル駅前広場では音楽会が催されていた。


 

 


 

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